いわさきちひろの描く子どもたちは、なぜあれほど心を打つのでしょうか。ふわりとした線、やわらかな色彩、そして何よりもその眼差しに宿る、言葉にならないやさしさと祈り。彼女の絵は、見る者の胸の奥にそっと触れ、癒しとともに静かな勇気を届けてくれます。
今回ご紹介する『ラブレター』は、絵本でも小説でもなく、ちひろ自身の言葉で綴られた“愛の記録”。講談社より2004年10月16日に刊行され、全258ページに及ぶ本書は、31歳から晩年に至るまでの情熱と孤独、そして深い愛を、日記やエッセイ、対談という形式で鮮やかに残しています。
福井県生まれ、東京で育ったいわさきちひろ(1918‑1974)は、戦争の悲しみを受け止めつつ、子どもの無垢な眼差しに平和と未来を描きました。水彩ならではのにじみと淡い色彩、余白を活かした構図は、どこか祈りを感じさせる佇まいです。彼女をただ「やさしい作家」とみなす人もいますが、その実像には、熱情と強さがたしかにありました。
『ラブレター』に収録された一節を読むと、「30年来私はこんなに人を愛したことはないもの…」という31歳の情熱、結婚4年めの夫に寄せる「胸のどきどきするようなしあわせな興奮」、そして40代に訪れた働き方の葛藤――すべてが赤裸々なままです。わがままではなく、自らの心と向き合い、自分の言葉で選択していく。そこにちひろの本当の強さがあります。
本書のタイトルは「ラブレター」。届くかどうか分からない、たった一人の相手への想い。それでも書き続けるその姿勢は、まさに商いに通じます。相手の反応を待つのではなく、「届けたい」という強い意志を持ち続ける覚悟。ちひろの言葉は、そんな普遍の商人マインドを鏡のように照らし出しています。そして、ちひろの表現は私たちに次のようなことを教えてくれます。
自分を隠さず正直であれ
日記やエッセイで曝け出された「孤独」「葛藤」「情熱」は、弱さではなく信頼につながる。商いでも、誠実で開かれた姿勢は相手の安心を生みます。
やさしさは、甘さではない
絵本の柔らかさに潜む揺るぎない信念。お客様への思いも同様に、柔らかく、しかし芯のある強さが必要です。
届け続ける姿勢が人を動かす
応えてもらえるかどうかより、「続ける」こと。ちひろも商いも、想いを乗せ続ける人にしか見えないものがあります。
『ラブレター』を手にとったとき、私たちはちひろの強い言葉に胸を打たれます。「届ける力」は、商いでも遜色ありません。“ラブレター”として、商品でもサービスでも、お客様に「想い」を書き続けられるか――その問いに対し、本書はそっと背中を押してくれるでしょう。
いわさきちひろが生涯を通して問い続けたのは、子どもの眼差しで世界を見つめ、「愛を描き、届ける」ことでした。その姿は、私たち商人にとって、まさに道しるべと言えるのではないでしょうか。







