「特に欲しいものはないんだけど、なんとなく行ってしまう店がある」
繁盛店を取材していると、こんな言葉をよく耳にします。裏を返せば、行く理由がはっきりしない店には、人は足を向けないということでもあります。いまの時代、モノはあふれ、価格も比較でき、わざわざ出かけなくても買える。それでも人が店に向かうとき、そこには必ず「口実」があります。
「今日は寒いから、あの店のスープを飲みに行こう」
「新商品が出たらしいから、ちょっと見てみよう」
「あの人に会いたくなったから、顔を出そう」
私はこうした店を「口実店」と呼んでいます。
用事をつくってくれる店
口実店とは「買い物があるから行く店」ではありません。行く理由を店の側が用意してくれている店です。
・毎週変わるおすすめがある
・季節の手書きチラシが出る
・店主の一言が更新される
・何も買わなくても歓迎される
こうした小さな仕掛けが「行ってみようかな」という気持ちを生みます。重要なのは、用事の大小ではありません。“行く理由が一つある”こと、それだけで十分なのです。
ある地方都市の小さな洋菓子店では、売上の柱はけっして高額商品ではありません。それでも来店頻度が高く、常に店に人がいます。
理由はシンプルでした。店頭に「今週の店主の一言」が掲げられているのです。商品の説明でも、セールの告知でもない。日々の出来事や、仕入れの裏話、時には失敗談。
それを読みに来る人がいる。そして、ついでに商品を見る。結果として、買い物が生まれる。口実が先、購買は後。これが口実店の構造です。
「売ろう」とすると口実は消える
注意すべきなのは、口実を「販促」にしすぎないことです。割引、特典、ポイント――それらは確かに短期的な口実になります。しかし、それだけに頼ると、口実はすぐに色褪せます。口実店の本質は、店の呼吸が外ににじみ出ていることです。
「今日はこんな一日だった」
「今、こんなことを考えている」
「この商品には、こんな背景がある」
それらを正直に、等身大で伝えましょう。すると不思議なことに、人はその“途中経過”に会いに来るのです。
口実店になるために、大きな投資はいりません。必要なのは、問いを一つ持つことです。「この店に、今日行く理由は何だろうか」という問いです。商品でなくてもいい。情報でも、言葉でも、人でもいい。昨日と今日が少し違う、その違いをつくることです。
口実は、店の外に向けた小さな招待状です。「何もなくても、来ていいですよ」という合図です。人口が減っても、消費が慎重になっても、口実のある店には、人が集まります。
あなたの店は、お客さまにどんな“口実”を手渡しているでしょうか。明日、ひとつでいい。その口実を、意識してつくってみませんか。





