笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

忘れられない店になる

「来店頻度を上げたい」
「リピート率を改善したい」

 

商いの現場では、こうした言葉が日常的に交わされています。数字で管理し、成果を測ることは大切です。しかし、ふと現場に立って考えてみると、どんな繁盛店であっても一日に三回来るお客様はいません。それでも、何十年と通い続けるお客様はたしかに存在します。

 

LTV(顧客生涯価値)とは、本来、その事実を言い表すための考え方だったはずです。ところが、いつの間にか難しい指標や計算式に置き換えられ、商人の肌感覚から遠ざかってしまいました。ここでは、LTVをもう一度、商人の言葉に引き戻してみたいと思います。

 

一生通う客が重ねているもの

 

LTVというと、「一人のお客様が生涯でいくら使うか」という金額の話として語られがちです。しかし、商いの現場で実感するLTVはもっと静かで、もっと人間的なものです。それは「どれだけ長い時間、その人の暮らしの中に居続けられたか」という問いに近いのです。

 

子どもの頃、親に連れられて訪れた店。学生になり、一人で入りづらかったが勇気を出して足を運んだ店。社会人になり、少し余裕ができてあらためて価値がわかった店。そして、いつか自分の子どもを連れていく店。あなたにも、こうした店が思い浮かぶでしょう。

 

一回一回の買い物は小さくても、時間が重なることで、売上は自然と積み上がっていきます。商人が本当に積み上げているのは、取引額ではなく、関係の年輪なのです。だからこそ、「一度の客単価を最大化しよう」と力みすぎると、かえって関係は続きません。LTVとは「今、いくら買ってもらったか」ではなく、「十年後も、思い出してもらえる存在でいられるか」という時間軸の商いなのです。

 

来店頻度を追いすぎると浅くなるもの

 

LTVを高めようとするあまり、来店頻度ばかりを追いかけてしまう店があります。その結果、現場ではこんなことが起きがちです。頻繁なDM、過度なポイント施策、しつこい次回提案。「また来てください」「今がお得です」という声が、いつの間にかお客様の生活リズムを侵食してしまう。

 

一生通うお客様との関係は密着ではなく、信頼できる距離感の上に成り立っています。毎日顔を合わせる必要はありません。むしろ、「必要なときに、そこにある」ことが大切なのです。思い出したときに、自然と足が向く。困ったときに、まず名前が浮かぶ。その程度の距離感だからこそ、関係は長く続きます。

 

商いにおいて、間を詰めすぎないことは、怠慢ではありません。お客様の人生を尊重する、ひとつの誠実さです。一生通うお客様は、頻度を管理されたから残ったのではなく、放っておいても信頼が消えなかったから残っているのです。

 

一生通う理由は「救われた記憶」

 

長く通っている理由をお客様に尋ねると、意外な答えが返ってくることがあります。「安いから」「ポイントが貯まるから」ではありません。「困っているときに、親身に話を聞いてくれた」「失敗した買い物を、責めずに受け止めてくれた」「何気ない一言に、心が軽くなった」といった出来事は、売上データには残りません。しかし、お客様の心には深く刻まれます。

 

LTVを高めるとは、「得をさせ続けること」ではありません。人生のどこかで、役に立った記憶を残すことです。商いの現場には、そうした瞬間が必ずあります。売れない日、忙しい日、余裕のない日。そんなときにどう振る舞ったかが、後になって効いてくる。一度の誠実な対応が、「この店なら大丈夫」という長年の信頼に変わるのです。

 

LTVとは短期的な販促の成果ではなく、人としての向き合い方の集積なのです。LTVは顧客を管理する数字ではなく、商人の姿勢の通知表です。結局のところLTVとは、顧客を囲い込むための指標ではありません。商人の姿勢が、時間をかけて数字になったものにすぎません。

 

今日も恥ずかしくない商い

 

目先の売上を優先した対応は、短期的には成果を生むかもしれません。しかし、お客様は必ず覚えています。あのとき、この店はどう振る舞ったかを。一生通うお客様がいる店は急がせません。煽りません。裏切りません。その積み重ねが、結果としてLTVとなって表れているだけなのです。

 

一日三回来るお客様はいません。だからこそ、今日来てくれた一人一人がかけがえのない存在です。この対応は、十年後も思い出してもらえるだろうか。この言葉は、人生のどこかで支えになるだろうか。そう問いながら商いに立つことこそが、商人にとってのLTV向上策です。

 

LTVとは、難しい計算式ではありません。一生通うお客様に、今日も恥ずかしくない商いをしているか。その問いに胸を張って答えられるかどうか――ただ、それだけなのです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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