笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

わずか数ページの中に、世界をひっくり返す発想力が、この作家の醍醐味です。ショートショートの名手・星新一は、短い物語の中に“人間の本質”を凝縮して描きました。

 

彼の作品は、創作だけでなく、ビジネスや商いの発想にも通じる「着想の磨き方」を教えてくれます。ここでは、代表作『ボッコちゃん』を手がかりに、日常の中から“ひらめきを育てる”三つのヒントを探っていきます。

 

1.「もしも」の先にあるもの

 

銀座のバーに、新しく入ったホステスがいました。彼女の名前はボッコちゃん。無口で、いつもにこやかに微笑んでいます。お客たちは彼女に惹かれ、次々と会話を楽しみます。しかし、物語の最後で明かされる真実は衝撃的でした。ボッコちゃんは、じつは店主が作ったロボットだったのです。

 

この短い物語の“転”には、人間の心理をえぐる問いが潜んでいます。「なぜ人は、心のないものに心を映すのか」。星新一の創作は、常にこの“もしも”の想像から始まっていました。

 

もしも、機械が人間より人間らしかったら?
もしも、善意が裏目に出たら?
もしも、常識がひっくり返ったら?

 

この「もしも」を考えることこそ、発想の出発点です。

 

商いの世界でも同じです。「どうすれば売れるか」ではなく、「売らないことで信頼されるとしたら?」と問いを反転させてみる。すると、“正解の反対側”に新しい答えが見えてきます。

 

星新一は、日常のあたりまえを裏返すことで、未来を描きました。商人もまた、常識の裏に潜む価値を見抜くことで、新しい市場を生み出せるのです。

 

2.短さは「純度」を高める装置

 

星新一の作品は、ほとんどが数ページで完結します。彼は「短い話のほうが、アイデアが純粋に伝わる」と語っています。

 

短い文章には、余計な飾りが入りません。最初の一文で読者の心をつかみ、中盤で意外な展開を仕掛け、最後の一行で世界を反転させる。この“構成の妙”こそ、星新一の最大の技術です。

 

この考え方は、商いや文章表現にも応用できます。たとえば店頭POPやSNS発信。長い説明より、「今日のあなたに似合う香り」という一言のほうが、心を動かす力を持ちます。短く、簡潔に、本質を伝える──これは制約ではなく、創造を研ぎ澄ます装置なのです。

 

短さを恐れず、伝えたい思いを削りに削る。そこに残った“核”が、共感を生みます。星新一が「短さで勝負した」のは、伝えたいことを純化するためでした。

 

商人が言葉を磨くのも同じです。「伝える」より「伝わる」ことを目指す。その姿勢が、人の心に残る言葉をつくるのです。

 

3.発想は「拾いに行く」もの

 

星新一は、毎日のようにノートに思いつきを書き留めていたといわれます。新聞の片隅の記事、街で耳にした会話、何気ない仕草。それらをメモし、いつかの物語の種にしていたのです。

 

彼の創作は、“天から降りる閃き”ではなく、“地上に落ちているアイデア”を拾い集める作業でした。だからこそ、作品には現実感と風刺が同居しているのです。

 

この姿勢は、商いの現場でもまったく同じです。お客様のひと言、季節の変化、街の空気──それらを感受し、観察し、拾い集めること。それが新しいサービスの種になります。

 

たとえば「高齢化」を嘆くのではなく、「外出を控える人が増えた」と気づいた瞬間、「お届けサービス」や「来店予約制」などの新提案が浮かびます。

 

星新一が「現実を観察して未来を描いた」ように、商人もまた、街を観察して次の手を描きましょう。違いを恐れず、変化を楽しむ姿勢が新しい発想を育てるのです。

 

短くても、深く伝わる力がある

 

星新一の物語はどれも短いですが、読み終えた後には必ず“問い”が残ります。「人間とは何か」「正しさとは何か」──。この余韻こそが、彼の作品の真骨頂です。

 

私たちもまた、短くても深く伝わる言葉を持ちたいものです。SNSの投稿も、店頭の一言も、限られた時間の中で人の心を動かす。

 

そのとき大切なのは、派手な表現ではなく、伝えたい思いの純度です。発想の星は、空の彼方にあるのではありません。日常の中、店の片隅、お客様の笑顔の中に、いつでも光っています。心を澄ませて見上げれば、私たちの頭上にも、“創造の星”がいつも輝いているのです。

 

星新一はいくつもの名作を生み出しています。読んでいない人も、かつてよく読んだ人も、そこから学べることは少なくありません。

 

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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