笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

売れない時代と言われます。しかし、よく見ると「売れている店」と「売れていない店」は、同じ町の中に並んで存在しています。

 

違いは何でしょうか。──答えは、「誰に」「何を」「どう伝えるか」が明確かどうかです。

 

この3つを整理する考え方が、マーケティングの基本フレーム「STP分析」です。SはSegmentation(市場の細分化)、TはTargeting(狙う市場の選定)、PはPositioning(自店の立ち位置の明確化)を意味します。難しい理論ではありません。むしろ「自分の商いを見つめ直すレンズ」として、あらゆる店に役立つ実践の道具です。

 

S:お客様は“ひとくくり”ではない

 

市場を分けてみましょう。「うちは地域密着だから、誰でも歓迎ですよ」という店ほど、顧客層がぼやけがちです。けれど、すべての人を相手にすることは、結果的に“誰にも響かない”ということになりかねません。

 

たとえば、あるパン屋さんがいました。商店街の一角で30年続く老舗ですが、スーパーやコンビニの進出で売上は半減。「うちは昔からのお客さんが多いけれど、若い人は来ない」と嘆いていました。

 

そこでまず、来店客を「平日昼に来る高齢者」「土日に家族連れで来る層」「学生や若い女性」の3つに分けて観察しました。すると、「平日の常連さん」は惣菜パンを好み、「週末の家族」は菓子パン、「若者層」はSNSで話題になる限定商品に反応していることが見えてきたのです。

 

市場を分けて見る──これがS(セグメンテーション)です。相手を細かく観察することが、次の一手の起点になります。

 

T:“誰に喜んでほしいか”を決める

 

次に、どの層に焦点を当てるかを決めます。すべての層に手を広げるより、「この人たちにいちばん喜ばれる店になる」と定めることが重要です。

 

先ほどのパン屋さんは、あえて「週末に家族で来る層」に絞りました。理由は、購買単価が高く、地域に口コミを広げる力があるからです。

 

そして、「親子で選ぶ楽しさ」をテーマに、子どもと一緒に作る体験イベントを開催。店の壁には子どもたちの写真を飾り、来店者の笑顔が増えていきました。結果、家族層の来店数は3カ月で1.5倍に増えたのです。

 

これがT(ターゲティング)──誰に照準を合わせるかの明確化です。“全員のお客様”ではなく、“特定の誰か”に集中することで、メッセージが届くようになります。

 

P:自店の立ち位置を決める

 

最後がP(ポジショニング)。選んだ顧客層に対して、自店がどんな存在でありたいかを定める段階です。

 

パン屋さんは「家族の週末を笑顔にするパン屋」という立ち位置を明確にしました。そのために、商品名も「おでかけピクニックパン」「日曜日のくまさんロール」など、物語性を持たせたネーミングに一新。「ここに来ると家族の笑顔が思い浮かぶ」と口コミが広がり、再び行列のできる店に復活しました。

 

ポジショニングとは、“他と違う理由”をつくること。価格でも規模でもなく、「お客様の心の中で占める位置」をどう築くかが鍵なのです。

 

STPは戦略ではなく「愛の構造」

 

STP分析というと、マーケティングの専門用語のように聞こえます。けれど、商人の本質は“お客様への愛情”にあります。

 

Segmentationは「お客様をよく見よう」という愛。Targetingは「この人たちを大切にしよう」という覚悟。Positioningは「自分たちらしく応えよう」という誇り。つまり、STPとは商いの愛の構造なのです。

 

変化の激しい時代ほど、「自分たちは誰のために存在するのか」を問うことが商いの羅針盤になります。あなたの店が、誰に、何を、どう伝えるのか。それを明確にするだけで、販促も商品も、接客もすべての軸が整っていきます。

 

“売る”前に見つめる--それが、繁盛への第一歩です。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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