笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

人が集う街は、誰かがつくってくれるものではありません。自分が暮らす場所を、自分たちの手で育てていく――その覚悟を持った人々が増えるとき、まちは初めて未来を描き始めます。

 

全国タウンマネージャー協会編著『まちづくりを仕事にする』は、そんな想いを胸に、現場で奮闘する実務家たちの記録です。ページをめくるごとに、地方都市のシャッター街を文化拠点へと変えた挑戦や、商店街とITを結び付けて販促に成功した事例、住民と行政を丁寧につなぎ合意を形成した軌跡など、数えきれないほどの生きた知恵が語られます。

 

机上の計画だけでは街は動かない。現場に立ち、汗をかいた人だけがつかむ真理がそこにあります。

 

タウンマネージャーという職業は、まだ一般にはあまり知られていません。けれど本書に登場する人々は、単なるイベント企画者でも地域おこしの旗振り役でもなく、経営者であり、調整役であり、コミュニティの伴走者です。

 

彼らは「まちづくりはビジネスであり、持続可能な仕組みを設計して初めて成果が出る」と語ります。これは、私自身が商人を支援してきた現場感覚と深く響き合います。理念だけでは続かない。数字と仕組みを伴ってこそ“仕事”になる――その厳しさと誇りが、全編から伝わってきます。

 

まちづくりは“誰かがやってくれるもの”ではありません。自分の暮らす場所を自分で育てる覚悟を持った人が、一人でも多くなること。それがまちの未来を決めるのです。

 

著者の一人であり、全国タウンマネージャー協会会長の松井洋一郎さんは、「おわりに」で、インド出身の経営学者、サラス・サラスバシーが提唱した「エフェクチュエーション(effectuation)を取り上げ、まちづくりについてこう述べています。エフェクチュエーションとは、企業家や経営者が不確実な状況で意思決定していくための理論やプロセスのことです。

 

「私が強く共感したのが、『未来は不確実で予測できない』こと。そして『いまの時点で利用可能な資源とネットワークを活用』することです。わかりやすくいえば、『つべこべ言わずに、手元にあるもので、とにかくやってみろ』ということになるでしょうか。(中略)状況に応じて一歩進み、変わっていく状況の中で次の方向を定めていく。こうして進み続けることで『自分の行動で未来を作り出していく』というのです」(本書216ページ)

 

こうした状況認識と行動様式こそ、まちゼミを全国に伝道し続け、その過程でまちゼミを進化させてきた松井さんの真骨頂。確かなビジョンを持ち続け、環境に応じて柔軟に変わり続ける――「まちづくり」という仕事においても、それが必要だと教えてくれます。

 

読み終えて、「まちづくりは特別な人だけの領域ではない」と私は気づかされました。小さな店で顧客と対話を重ねること、商店街でゴミを拾うこと、地域の会合に足を運ぶこと――それらはすべて、街を育てる“しごと”の一部です。あなたが今日、店先で笑顔を向けるその瞬間から、まちは確かに変わり始めるのです。

 

本書は、行政や専門家だけに向けられた本ではありません。未来を描く仕事に、私たちはすでに足を踏み入れているのだと、静かに、そして力強く教えてくれる一冊です。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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