「お客様は皆さん大切です」
これは商売をする人なら誰もが口にする言葉です。もちろんそのとおりなのですが、実際の数字を冷静に見てみると、そこには驚くべき偏りがあります。
イタリアの経済学者ヴィルフレード・パレートが発見した「パレートの法則」。通称「80対20の法則」と呼ばれ、「全体の成果の8割は、わずか2割の要素から生み出される」という経験則です。経済全体に限らず、商売においてもこの法則ははっきりと姿を現します。
お客様の2割が店を支えている
ある地方都市で長年営業を続ける和菓子店がありました。店主は「毎日来る人も、年に一度しか来ない人も、みんな同じようにありがたい」と思っていました。けれどある日、商工会議所の経営指導員の助言を受け、POSレジのデータを分析してみたのです。
すると驚くべき結果が出ました。全顧客のうち、月に2回以上来店する常連客は全体のわずか18%。しかしその人たちが、売上の実に82%を占めていたのです。
「やはりこの人たちがうちを支えてくれているんだ」――そう痛感した店主は、さっそく行動に出ました。常連客をリスト化し、毎月一度「お菓子便り」を手書きで送ることにしたのです。
そこには季節の和菓子の写真と、作り手の想いを添えました。ときには「お得意さま限定の先行予約」を設け、直接の声かけも欠かしませんでした。
結果はどうなったか。翌年、売上は前年比で15%増。常連客の購入頻度がさらに上がり、「このお便りが楽しみなんだよ」と言ってくださる人まで現れました。
大切な人を大切にする
誤解してはいけません。「常連以外のお客様はどうでもいい」ということではけっしてありません。ただ、時間も労力も有限です。すべてのお客様に均等に注ごうとすると、結果的に誰にも十分な手間をかけられなくなります。
むしろ「よく来てくれる人」「よく買ってくれる人」に手厚く心を注ぐことが、商人としての誠実な姿勢なのです。なぜならその人たちこそが店を日々支え、存続させてくれているからです。そして、その2割のお客様に深く寄り添えば、そこから「紹介」が生まれ、「クチコミ」が広がり、さらに新しいお客様との出会いを導いてくれます。
商いに活かす第一歩
パレートの法則を商いに活かす第一歩は「お得意さまリストをつくること」です。大げさなシステムはいりません。手帳に名前を書き出すだけでもかまいません。
・月に複数回来るお客様
・毎回まとまった金額を買ってくださるお客様
・長く通ってくださるお客様
こうした人たちを思い浮かべ、顔をリストに残すのです。次に、その人のためにどんなひとことを伝えるか、どんな特別な体験を用意するかを考えてみましょう。
たとえば――
・誕生日に「おめでとうございます」と声をかける
・仕入れた新商品を「真っ先にお知らせ」する
・お礼状にひとこと手書きを添える
これらはどれも、お金をかけずにできることです。けれど、その積み重ねが「私の店」という信頼を築いていきます。
最初の一歩が二歩目に続く
パレートの法則は、数字の理屈に見えますが、本質は「人との関係」です。あなたの店を支えているのは、顔の見えるお客様たち。その人たちを大切にすることは、商人としての誇りでもあります。
さあ、今日からできることは何でしょうか。まずはノートを開き、常連のお客様を3人だけ書き出してみてください。そして「その人に次に何を伝えようか」と考えてみましょう。
それが最初の一歩です。やがて、その一歩が二歩となり三歩となり、気がつけばあなたの店の未来を大きく変える道になります。







