「仕事というものは、自分の心を賭けなければ、なにも生まれない」――花森安治
この言葉には、単なる努力や技術の追求だけでなく、自分の信念や価値観を仕事に注ぎ込むことの大切さが込められています。1948年に創刊された「暮しの手帖」の創刊編集長、花森安治は、この信念を体現し続けた人物です。彼の徹底した仕事への向き合い方、そして残した功績は、現代の商いや日々の仕事に多くの学びを与えてくれます。
花森はもともと画家・デザイナーでした。広告業界で培った表現力と美意識を生かしつつ、「戦後の暮らしを丁寧に、豊かにする情報を届けたい」という強い信念で「暮しの手帖」を立ち上げます。当時、日本には消費者目線の生活情報誌はほとんどなく、花森は妥協のない編集姿勢で雑誌づくりに挑みました。
ちなみに同じ年に創刊したのが、事業者の側から生活者の暮らしを向上させようとした「商業界」です。創立者・倉本長治と花森安治の間に交流があったかどうかは記録に残っておりませんが、二人は高く険しい山頂を異なるアプローチで極めようとした同志ではなかったかと私は思います。
「暮しの手帖」の象徴は何かといえば、名物企画である商品テストです。台所用品、掃除道具、衣料品、食品に至るまで、編集部員と共に徹底的な検証を行いました。包丁ひとつでも、実際に何度も使い、耐久性や切れ味、素材や形状、使い勝手まで細かく分析。「なぜ良いのか、何が劣るのか」を正確に伝える――その姿勢は、読者の信頼を生む最大の要因となりました。
この姿勢は、現代の商いにおける顧客体験の徹底追求とデータに基づく商品改善に通じます。広告やメーカーの言いなりにならず、常に消費者目線で「本当に役立つか」を判断すること。これこそが、長く愛される商品やサービス、ブランドを生む源泉です。

では、花森安治の仕事哲学を、今日の商いや仕事に活かすためにはどうすればよいでしょうか。以下に具体的なポイントを挙げます。
1. 顧客目線で「本当に役立つか」を検証する
小さな商品やサービスでも、自分自身で試してみること。花森のように徹底的に使い勝手や効果を確認することで、改善点や強みが見えてきます。東京浅草・かっぱ橋道具街にある料理用品専門店「飯田屋」の店主、飯田結太さんが一人のお客様の要望に応えるために、数多くの商品を一点ずつ取り寄せ、自分ですべてを試したエピソードが思い出されます。その詳細はこちらからご覧ください。
2. 妥協せず、細部に心を込める
包装やデザイン、接客のちょっとした言葉まで、顧客が感じる価値は細部に宿ります。「小さな違い」こそが、ブランドの信頼を左右することを意識しましょう。
3. 商品やサービスにストーリーを添える
花森は雑誌の中で、単なる情報ではなく「なぜ良いのか」を伝えました。現代の商いでも、商品やサービスに背景や工夫の物語を添えると、顧客は価値を理解し、共感します。
4. 自分の信念を注ぎ込む
利益や効率だけでなく、自分自身の価値観や理念を仕事に反映させること。冒頭の花森の言葉のとおり、心を込めた仕事こそが、人の心に届くのです。
5. 小さな改善を積み重ねる
商品テストや暮らしの工夫のように、毎日の小さな改善を積み重ねることが、大きな信頼とブランド力を築きます。焦らず丁寧に、日々の積み重ねを大切にしましょう。

花森安治が残した「暮しの手帖」は、ただの雑誌ではなく、生活者と仕事への誠実さの象徴です。彼の仕事哲学を商いや日々の業務に応用することで、数字や効率だけでは得られない顧客の信頼と長期的な価値を生み出すことができます。
心を込め、徹底的に顧客視点で取り組む――この姿勢は、現代の商いにも、そして私たちの日々の仕事にも、変わらぬ光を放ち続けています。







