◆今日のお悩み
原材料費や人件費が上がっても、「お客様に申し訳ない」と値上げを躊躇しています。ですが、このままでは利益が出ず、従業員の待遇改善もできません。
昨今、外食をはじめ多くの業種で値上げが当たり前のように行われています。それでもなお、現場では「価格を上げることはお客様を裏切ることではないか」と悩む経営者の声を頻繁に耳にします。しかし、本当にそうなのでしょうか。
価格とは単なる数字ではなく、企業が商品やサービスに込めた「価値の約束」の表れです。値上げは苦渋の決断であると同時に、「これからもより良いものを提供し続けます」という未来への誓いでもあります。その覚悟を具体的に示した企業のひとつに「カレーハウスCoCo壱番屋」があります。

「大衆カレー」の誇りを守るために
カレーハウスCoCo壱番屋は近年、相次いで価格改定を行ってきました。2022年6月に平均5.9%、同年12月に7.4%、そして2024年8月には最大10.5%の値上げを実施し、主力メニューのカレーライスはついに1,000円台に突入しました。
しかし、経営トップである葛原守社長はこう語っています。「高級化するつもりはありません。私たちはあくまで“大衆的な街のカレー屋”でありたいのです」。
この言葉が象徴するように、同社の値上げはブランドの方向転換ではなく、本質の堅持を目的としています。値上げによって品質やサービスの水準を保ち、お客様の期待に応え続けるための決断でした。
特徴的なのは、選べる楽しさを損なうことなく、自由なカスタマイズ体験を継続している点です。ご飯の量や辛さ、トッピングの組み合わせは12億とおり以上にも及びます。お客自身が「自分だけのカレー」を作り上げられる自由度が、価格上昇を納得へと変える鍵となったのです。
その結果、平均客単価は大きく上昇し、売上高は5期連続で増加。営業利益も過去最高を更新し、値上げが裏目に出るどころか、企業としての安定性と成長性を証明するものとなりました。
価格に物語を添える
中小企業の現場では「値上げをしたら客離れが起きるのでは」と不安が広がっています。しかし重要なのは価格改定そのものではなく、その背景をどのように伝えるかにあります。CoCo壱番屋は以下の3点を丁寧に実践しました。
・原材料高騰や人件費増加、品質維持の必要性を率直に説明した
・高価格ではなく、高価値を提供し続けるという姿勢を明確に示した
・お客様の声に耳を傾け、商品やサービスの改善を継続した
この姿勢が「申し訳なさ」を誠意へと変えました。価格に物語を添えることで、お客様は納得し共感し、やがて支持者となっていくのです。価格改定は決して避けるべきものではなく、むしろ企業が次なる価値を届けるための意思の表明であるといえます。
「値上げ=悪」ではありません。問題は価格に見合う価値があるかどうか、そしてそれをきちんと伝えているかどうかです。CoCo壱番屋のように、値上げを未来への投資に変える企業は、これからの時代にこそ強さを発揮します。
今問われているのは「いくらで売るか」ではなく、「どんな想いで届けるか」です。あなたの値付けには、誇りと物語が宿っていますか?そして、明日もその想いをお客様に正直に伝える覚悟をお持ちでしょうか。
#お悩みへのアドバイス
伝える勇気があれば
値上げは怖くない
変わらぬ信頼は
必ず築けるものだ
※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」の連載「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。2年間24回をもって連載は終了させていただきますが、毎号、興味深い特集が組まれていますので、ぜひお読みいただけると幸いです。また、これまでのコラムはオンラインメディア「Wedge ONLINE」でもお読みいただけます。





