笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

行列日本一 スタミナ苑の繁盛哲学

東京・足立区に“焼肉の聖地”と呼ばれる店があります。「スタミナ苑」には、著名な俳優、ミュージシャン、そして時の首相までもが行列に並んでまで肉を食べに訪れます。

 

予約を受け付けないその店に、連日途絶えることのない人の波。食通たちの舌を唸らせ、20年以上にわたって「行列日本一」を守り続けてきた背景には、一人の商人の“熱”がありました。

 

その名は、豊島雅信さん。通称「ホルモンバカ」。小さな身体の中に、燃えるような情熱を宿した男です。本書『行列日本一 スタミナ苑の繁盛哲学』は、そんな豊島さんの半生と仕事観、そして魂のような言葉たちを記した一冊。単なる焼肉店主の成功談ではありません。これは、どんな逆境にも屈せず、働く意味と誇りを自分の手で掴み取ってきた「現代の仕事論」です。

 

豊島さんには右手の指が2本ありません。幼い頃の事故によるものでした。子ども心に、他人と違うことの意味に悩み、自信をなくし、コンプレックスを抱えながら育ったと語ります。しかしその痛みは、やがて「負けてたまるか」という強烈な反骨心に変わっていきます。

 

45年、ホルモン一筋に生きてきました。夜中に仕込みを始め、開店から閉店まで立ちっぱなしで動き続け、仕込み、接客、清掃、すべてを一人でやり抜く。右手に障害があるからこそ、左手一本でできることに限界を感じたことは数知れません。しかし彼は、誰よりも働くことでしか、その壁を打ち破ろうとはしませんでした。

 

「一番イヤなことは自分でやる」

 

これが豊島さんの流儀です。店の掃除、トイレの清掃、失敗した部位のカット……。誰かに任せれば早いことでも、あえて自分がやる。その姿勢が店全体の空気を変えることを、彼は肌で知っているのです。仕事とは、誰かの期待に応えることではなく、自分がどうあるかを試される場である——そう語っているようにも感じます。

 

また、彼は言います。「いいなって思ったら、その瞬間から勉強が始まる」。

 

一見、肉職人らしからぬ言葉ですが、これが商いの本質でもあります。お客様が何を「いいな」と思ってくれたか。それを感じ取る力、そしてそこから学び続ける謙虚さこそ、繁盛店を育ててきた秘訣なのです。

 

忙しいときほど手を抜かない。それが、スタミナ苑が名店たり得たもう一つの理由です。忙しさにかまけて妥協してしまえば、たった一度の失望で、お客様は二度と戻ってこないかもしれない。だから、ピーク時こそ勝負。だから、手を抜かない。これは料理の話にとどまりません。あらゆる仕事にも通じる“真理”です。

 

さらに驚かされるのが、こんな発想です。「お客さんを自分の彼女だと思う」。

 

ふざけたようで、これ以上に本質を突いた言葉もありません。目の前の人を大切に想う。どうすれば喜んでもらえるか、また来たいと思ってもらえるか、真剣に考える。恋愛と同じく、商売も“思いやり”と“気配り”の連続なのです。

 

「当たり前のことを当たり前に続ける」
「どうしたら、どうしたら、どうしたらを常に考える」

 

この二つの言葉には、商いの根源が詰まっています。奇をてらわず、地道に、誠実に、仕事に向き合い続ける姿勢こそが、20年以上もの行列を生み出してきたのです。SNSも広告も頼らず、テレビ取材に出てもメニューは変えない。流行ではなく、信念で勝負する。それがスタミナ苑であり、豊島雅信という商人なのです。

 

本書には、経営理論もマーケティング戦略も書かれていません。しかし、だからこそ心に迫ります。どれだけ時代が変わろうと、仕事とは、誰かのために一生懸命であること。商いとは、人に誠実であること。その原点を教えてくれます。

 

豊島さんは、名言を残すより、肉を焼く手を止めない人です。右手に障害を抱えながら、毎日15時間近く立ち続け、仕込みから清掃まで一手にこなす。その姿勢には、経営者以前に「働く人」としての覚悟と誇りがあります。

 

いま、働く意味を見失いかけている人が増えています。「どうせ無理だ」「もう遅い」と心にブレーキをかける人が増えています。けれど、そんな人にこそ、この本を手に取ってほしいのです。障害があっても、苦労があっても、目の前の仕事に全力を尽くすことで、人は誰かの希望になれる。豊島さんの生き方は、その確かな証なのです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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