笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

私たちは毎日、数えきれないほどの情報に囲まれています。商品のPOP、SNSの投稿、メールマガジン、チラシ、そしてテレビやネット広告。ところが人間の脳が一度に記憶できる情報の数には限界がある――これを示したのが、心理学で有名な「マジカルナンバー7±2の法則」です。

 

1956年、アメリカの心理学者ジョージ・ミラーが発表した研究によると、人が短期記憶(ワーキングメモリ)で同時に保持できる情報の数は、おおむね「7つ前後(5~9)」だといいます。つまり、8個目、9個目の情報になると、人の脳はもう整理しきれず、忘れたり混同したりしてしまうのです。

 

情報を詰め込みすぎると伝わらない

 

この法則は単なる心理学の話ではなく、商人にとっての「売り場づくり」「商品訴求」「顧客体験設計」に深く関わる原理です。なぜなら買い物とは心理に基づく行為だからです。

 

たとえばスーパーの惣菜売場に「お弁当」が10種類以上並んでいるとしましょう。選択肢が多いほどお客さまは喜ぶように思えますが、実際には逆の現象が起こります。人は「選択肢が多すぎる」と決められなくなり、“選択のパラドックス”に陥ってしまうのです。結果として、「また今度にしよう」と購買が先延ばしされます。

 

東京の下町のある惣菜店では、昼時の人気弁当をあえて「5種類」に絞り込みました。主菜のバランス(魚・肉・野菜)、価格帯、ボリュームを考慮して構成したところ、売上は1.5倍に伸びたといいます。「選ばせる」より「選びやすくする」。この違いが、マジカルナンバーの法則を理解しているかどうかの差です。

 

数を減らす勇気

 

同じことは、チラシやPOP、さらには従業員の接客トークにも言えます。たとえばPOPに10個のセールスポイントを並べるよりも、「3つの理由で人気!」と絞り込んだほうが圧倒的に記憶に残ります。これは「マジカルナンバー3」の応用で、人の注意を最も引きつけ、記憶に残りやすい数が“3”であるという経験則です。

 

テレビCMでも、「うまい・安い・早い」「安全・安心・安定」など、“3つの言葉”が繰り返されるのはこのためです。つまり、「覚えてもらうには、数を減らす勇気がいる」のです。

 

京都府のある老舗文具店のPOP担当スタッフは、以前まで「このペンは書きやすく、インクが長持ちし、グリップが柔らかく、カラーバリエーションが豊富で……」と説明を並べていました。しかし、あるとき店主に「3つに絞ってみよう」と言われ、「書きやすい、にじまない、ずっと使える」の3つに整理したところ、売上が2割増えたそうです。お客さまが「覚えられる数」に合わせて情報を絞る――それこそが、伝える技術の第一歩なのです。

 

7つを超えた瞬間、印象はぼやける

 

商いの現場でも、つい欲張って「これも伝えたい」「あれも知ってほしい」と思いがちです。しかし、「マジカルナンバーの法則」は、私たちに静かにこう諭します。伝えることを減らすほど、伝わることが増える、と。売場のメニュー、SNSの投稿、店頭のキャッチコピー――どれも「多く見せる」より「覚えやすくする」ことを目的に設計すべきです。覚えてもらえない情報は、存在しないのと同じだからです。

 

情報過多の時代において、“伝えすぎない”勇気こそが、商人の武器です。マジカルナンバーの法則を意識すれば、「減らす」「絞る」「整理する」という発想が自然に身につきます。それはお客さまの時間を尊重し、脳の負担を減らす、いわば“やさしさの設計”です。

 

選びやすく、覚えやすく、伝わりやすく、情報を7つに抑え、要点を3つに絞る――この小さな工夫が、あなたの店の印象を強くし、思い出される確率を高めます。商いとは、覚えてもらうことから始まります。「どんなに素晴らしい商品も、思い出してもらえなければ存在しない」──この言葉を胸に、今日も売場を見直してみましょう。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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