笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

なぜ“おいしい商品”ほど売れないことがあるのか

地元の食材を生かした食品開発に挑戦している、ある若い事業者と出会いました。発酵の技術を使い、塩や化学調味料に頼らず素材本来の味を引き出す食品をつくろうとしています。麹を使ったジャーキーやドライフルーツなど、地域の素材と技術を掛け合わせた商品です。

 

その商品を試食させてもらいました。正直に言って、とてもおいしい。体にもやさしい。しかも地元の素材を使っています。これほど条件がそろっていれば、売れない理由などないように思えます。

 

しかし、商いの現場はそれほど単純ではありません。そこで私は、信頼している食品スーパーの店主に商品企画を見てもらい、売り手の視点から率直な意見をもらうことにしました。すると、返ってきた言葉は意外なものでした。

 

「面白い。でも、いつ食べるの?」

 

短い言葉ですが、この一言には商品づくりの本質が詰まっています。

 

 

「おいしい」だけでは売れない理由

 

商品づくりに携わる人の多くは、「おいしいものをつくれば売れる」と考えます。もちろん味は大切です。おいしくない商品は長く支持されません。しかし現実の売場では、おいしいだけでは売れない商品が数多く存在します。なぜでしょうか。

 

理由は単純です。お客様は“おいしいもの”を探して買い物をしているわけではないからです。スーパーで買い物をする場面を思い浮かべてみてください。「今日は夕飯のおかずを買おう」「朝食のパンを買おう」「晩酌のおつまみを買おう」など、人は目的を持って売場に立ちます。

 

つまりお客様が探しているのは、おいしい商品ではなく、役割を持った商品です。どれほど味が良くても、いつ食べるのか分からない、どんな場面で食べるのか想像できない、何と一緒に食べるのか分からない――こうした商品には、なかなか手が伸びません。売れない理由は味ではなく、生活の中の位置が見えないことにあるのです。

 

商品は生活導線上にあってこそ売れる

 

ここで重要になるのが「生活導線」という視点です。生活導線とは、人が一日の中で自然にたどる行動の流れのことです。朝、パンとコーヒーを飲む。昼、弁当を食べる。夜、夕食を囲む。あるいは晩酌をする。こうした日常の流れの中に商品が入ると、人は自然に手に取ります。

 

たとえば、朝のヨーグルト、昼のコンビニ弁当、夜のおつまみなど、これらは特別な商品ではありません。しかし、生活導線の中にしっかり位置づけられているから売れるのです。

 

逆に、どんなに魅力的な商品でも生活の流れの中に居場所がなければ、なかなか売れません。先ほどの発酵食品も、「登山の携帯食」「晩酌のおつまみ」「運動後のたんぱく質補給」といった具体的な場面が見えてくると、商品は一気に現実味を帯びます。つまり商品とは、生活のどこで登場するかが決まったときに売れるのです。

 

 

ニーズは机の上では見つからない

 

では、その生活導線やニーズはどのように見つければよいのでしょうか。答えは意外なほどシンプルです。人の前に立つことです。店頭でも、イベントでも、試食でもよい。とにかくお客様の前に商品を出してみることです。

 

すると必ず、こんな言葉が返ってきます。「これ、いつ食べるの?」「どうやって食べるの?」「お酒に合うの?」といった何気ない質問の中に、商品を磨くヒントが隠れています。

 

商品開発というと、企画書や市場分析を思い浮かべがちですが、本当のニーズはそこからは生まれません。ニーズは人の声の中にあります。だからこそ商人は売場に立ち続けるのです。

 

おいしい商品は確かに大切です。しかし、それだけでは足りません。
お客様が探しているのは「味」ではなく、自分の生活に必要なものだからです。だから商品づくりで最も大切な問いは、こうなります。

 

この商品は、誰のどんな一日に登場するのか。朝なのか。昼なのか。それとも、仕事を終えた夜のひとときなのか。その場面が見えたとき、商品はただの食品ではなく、お客様の暮らしの一部になります。

 

もし今、思うように売れない商品があるなら、味やパッケージの前に、「この商品は、いつ食べるものだろうか?」と問いを立ててみてください。そしてもう一つ「それは、誰の生活導線の中にあるのだろうか」と。

 

その問いを持って売場に立ち、お客様の声を聞き続けてみてください。商いの答えは、いつも机の上ではなく、お客様の暮らしの中にあります。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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