笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

何が起きているのか、さっぱりわからない――そんな瞬間が、誰の仕事にもあります。市場が急に変わる。顧客の反応が読めない。これまでの成功法則が通じない──。それは決して「情報不足」ではなく、「意味づけ」が追いついていない状態です。

 

この“混沌”を理解し、行動の道筋を見いだすための考え方が、センスメイキング理論(Sensemaking Theory)です。提唱者はアメリカの組織論学者カール・ワイク。彼は「人は出来事を理解することで、行動の意味を見いだす存在だ」と説きました。つまり、人は世界を“理解してから”動くのではなく、“動きながら理解していく”のです。

 

“意味をつくる”営み

 

「センスメイキング(sensemaking)」とは、直訳すれば「意味づけ」や「納得づくり」。予測不能な出来事に直面したとき、人はそれを理解しようとし、過去の経験や他者の言葉をもとに“ストーリー”をつくります。そのストーリーこそが、行動の方向性を決めるのです。

 

たとえば、突然お客様の来店が減ったとします。「景気が悪いから仕方ない」と捉えれば、打つ手はありません。しかし、「うちの店の“理由”が薄れているのかもしれない」と意味づけすれば、行動が変わります。センスメイキングとは、事実に“自分なりの意味”を与え、次の一歩を導くプロセスなのです。

 

行動が“理解”を生む

 

福岡市にある文具雑貨店「HIGHTIDE STORE(ハイタイド ストア)」は、もともと文具メーカーのハイタイドが自社ブランドの世界観を伝えるために開いた直営店です。ノートや手帳、筆記具といった日用品を扱いながらも、単なる「売場」ではなく、「文具を通して自分を見つめ直す時間」を提供しています。

 

その発想の原点は、コロナ禍の最中に訪れた“気づき”にありました。在宅ワークの広がりで、文具の売上は減少。「紙を使う機会が減った」という現実を前に、スタッフたちは立ち止まりました。

 

しかし彼らは、そこで“意味”を問い直します。「人はなぜ手帳を書くのか?」「なぜ紙に触れると落ち着くのか?」。それらの問いの中から浮かび上がったのは、文具は“時間を整える道具”であるという気づきでした。

 

そこで店は「書く・触れる・飾る」をテーマに、体験コーナーを設置。手帳やノートを自由に試せるデスク、紙質やインクを比べられるテーブル、スタッフの“お気に入り文具”を語る棚など、来店者が「感じる」売場をつくり出しました。さらに、文具の展示会やワークショップを通じて「自分の時間をデザインする文化」を発信。結果として、HIGHTIDE STOREは“文具を買う場所”から“暮らしを整える場所”へと意味を変え、全国からファンが訪れるブランド拠点となりました。

 

彼らが行ったのは、商品を変えるのではなく、“意味”を変えること。まさにセンスメイキングの実践です。

 

センスメイキング3ステップ

 

センスメイキングは、抽象理論ではなく、現場を動かす思考技術です。ワイクの理論を商人の実践に落とし込むなら、次の3ステップが有効です。

 

1.気づく(Noticing)
まず、目の前の変化に“気づく”こと。数字の変化、顧客の表情、現場の違和感──それらを「ただのデータ」でなく「兆し」として捉えます。

 

2.意味づける(Interpreting)
次に、その出来事を自分なりに解釈します。「なぜ起きたのか」「そこにどんなメッセージがあるのか」。ここで重要なのは、“唯一の正解”を求めないことです。複数のストーリーを並べ、暫定的に理解する姿勢が求められます。

 

3.行動する(Enacting)
そして、意味づけをもとに行動する。ワイクは「行動が理解を生む」と言います。実際に動いてみることで、状況が変わり、次の気づきが生まれるのです。つまりセンスメイキングは、思考と行動の循環によって深化します。

 

日常業務で実践するなら、「昨日の気づきを朝礼で共有する」「お客様の言葉をPOPの言葉にする」「小さな試みを1日1件やってみる」などです。その小さな実践こそ、“意味の見える化”の第一歩になります。

 

意味を問うことから商いは始まる

 

かつて商いは、「物を売る」ことで成立していました。しかし成熟社会では、“なぜこの店で買うのか”という意味づけが、選択の決め手になります。消費者が求めているのは、単なる商品ではなく、「自分らしくありたい」「誰かの役に立ちたい」「心が満たされたい」という“意味”です。それに応えられる店は、必ず強くなります。

 

センスメイキングとは、まさに“意味の経営”です。数字や効率の先にある「物語」をつくり、お客様と共有する。その物語が共感を生み、信頼を生み、やがて繁盛へとつながるのです。

 

時代が変わり、常識が揺らぐとき、私たちは「何が正しいのか」と悩みます。けれども、商いの現場で本当に問うべきは、「何が正しいか」ではなく、「何が大切か」です。センスメイキング理論は、混沌の中で自分の軸を取り戻す道具です。答えがない時代だからこそ、「意味」をつくり出せる商人が、次の時代を切り拓くのです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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