新規客が増えない。広告を打っても反応が薄い。SNSも頑張っているのに伸びない。そんな声が、いま本当に増えています。
けれど現場をよく見ると、もう一つの事実が浮かび上がります。新規が増えないのではなく、“戻ってくる理由”が弱いのです。
今の時代、お客さまは「店を知らない」のではありません。選択肢が多すぎて、忘れてしまう。忙しすぎて、後回しになる。家計防衛の気分が強く、失敗を避けたいから、結局いつもの店に流れる――。
つまり勝負は、新規獲得の派手さより、再来店の確実さに移っています。そこで提案したいのが、新規客獲得より先に、常連客の“もう一歩”を増やすことです。
常連客の“もう一歩”とは何か
「常連客を増やす」と言うと、来店回数を増やす話に聞こえます。もちろんそれも大切です。しかし本当に効くのは、もう少し具体的です。たとえば――
「買うつもりはなかったけれど、ついでにもう一点」
「次の来店を迷わず決める」
「友人に店の名前を口にする」
「相談してから買う店として思い出す」
この“もう一歩”は、広告ではつくれません。店の現場でしかつくれないものです。そして現場でつくれるからこそ、再現できます。さらに設計できます。
常連客とは、ただ頻繁に来る人ではありません。「この店に任せれば大丈夫」という確信を持ち、頭の中の優先順位が上がっている人です。その確信を一段深めるのが“もう一歩”です。
「次の理由」で再来店を生む
お客さまが戻ってこない最大の理由は、「不満があった」からではありません。多くの場合、理由が手元に残っていないだけです。
買い物が終わった瞬間、店での体験は消えていきます。帰り道には別の用事があり、家に着けば家事や仕事があるからです。そこで店がやるべきことは、二つだけです。一つ目は「今日の買い物が良かった」と心の中で確定させること。二つ目は「次に来る理由」を具体的な形で残すこと。
たとえば会計後、「また来てください」ではなく、「次は○○タイミングで来てください」と添えましょう。次の理由が具体的になるほど、再来店は自然に起きます。お客さまが頑張って思い出す必要がなくなるからです。
“もう一歩”を増やす三つの設計
ここからは、現場で効く設計を三つに絞ってお伝えします。どれも「仕組み」であり、気合いではありません。
設計①「次回来店の合図」を買った瞬間に渡す
再来店が増える店は、会計の場が巧みです。“ありがとうございました”で終わらせません。「次の一手」を、短く渡します。
たとえば食品なら「次はこれと合わせると一番おいしいです」、日用品なら「次に買い替える目安はここです」、衣料品なら「これ、来月の気温だといちばん活躍します」と添えます。
どれも共通しているのは、次が具体的であることです。「また来てください」ではなく、「次は○○のタイミングで来てください」となっています。お客さまは、未来が見えると戻ってきます。
設計②「一点買い」を「相談買い」に変える
常連客化が進む店は、商品ではなく“相談”が増えます。相談が増えると、買う量も単価も上がりますが、それ以上に大きいのは関係が深まることです。
ここで大事なのは、難しい接客ではありません。質問を一つ増やすだけです。
「どなたが使いますか?」
「どんな場面で使いますか?」
「いちばん困っているのはどこですか?」
この一問があると、お客さまは“自分のための買い物”になり、満足度が上がります。満足度が上がると、次の相談が生まれます。相談が生まれると、店は「選ばれる理由」を持ちます。
設計③「常連客の名前」を増やすのではなく、「常連客の物語」を増やす
常連客づくりというと、顔と名前を覚える話になりがちです。もちろんそれも力になります。しかし本質は、名前ではなく“物語”です。
「この前、寒いって言ってましたよね」
「お子さんの入学、もうすぐでしたね」
「前回のあれ、使い心地どうでした?」
この一言は、商品知識より強い。人は“覚えられている”より、“気にかけられている”に心が動きます。そのとき店は、売場ではなく居場所になります。
会計時に「次の一言」を決める
最後に、明日からの一歩を一つに絞って提案します。会計時の一言を、店で統一してください。
「次は○○のタイミングで」
「これと合わせるなら○○」
「次に迷ったら○○」
一文でいいのです。スタッフ全員が同じ言葉を渡せると、店の再来店は増えます。なぜならお客さまの手元に、「次の理由」が残るからです。
新規は大切です。けれど生活防衛の時代、強い店は“取りに行く”より“戻って来られる”店です。常連客の“もう一歩”を増やす。それは派手ではありません。しかし、確実に店の足腰を強くします。たった一人に手渡す「次の理由」が、商いの未来を支えるのです。






