「この商品、何度告知しても反応がない」
「チラシもSNSもやったのに、誰も来てくれない」
多くの店主がそう嘆きます。しかしじつはそれ、“反応がない”のではなく、“まだ認知されていない”だけかもしれません。
マーケティングの世界には「認知の7回法則(Rule of 7)」という考え方があります。これは、お客さまがあなたの商品やサービスを本当に認識し、行動に移すまでには、少なくとも7回の接触が必要だというものです。
人は一度では覚えない
人間の記憶は「聞いた」「見た」だけではほとんど残りません。心理学者エビングハウスの「忘却曲線」によれば、人は聞いた内容の7割を1日で忘れるといいます。つまり、「一度告知したから伝わったはず」というのは、売り手の思い込みなのです。
たとえば、商店街で新しいパン屋が開店したとします。開店チラシを1回配っただけでは、ほとんどの通行人の記憶に残りません。ですが、数日後に同じロゴを見かけ、SNSで友人が「ここのクロワッサンがおいしい」と投稿し、さらにテレビで地域紹介コーナーに映る──。こうして“7回目”にようやく「行ってみよう」と行動が起こるのです。
“しつこい”ではなく“誠実”
日本人は「しつこく思われたくない」と遠慮しがちです。しかし、7回の接触を「しつこい」と感じる人は少数派です。むしろ、多くの人は繰り返し触れるうちに、「このお店、本気なんだな」と信頼を感じるようになります。心理学的にも「単純接触効果(ザイアンス効果)」と呼ばれ、何度も触れることで好感度が上がることが証明されています。
たとえば、奈良県のある小さな茶舗では、開店当初から地域新聞、Instagram、LINE公式、店頭POPを連動させ、「同じ言葉・同じデザイン」で繰り返し発信してきました。最初の3カ月は反応が鈍かったものの、半年後には「よく目にするから気になって」と来店するお客が増え、今では毎週のように常連が立ち寄る人気店になりました。
店主は言います。「お客様の記憶に残るまでには、私たちが思うより時間がかかる。でも、伝えることをやめなければ、必ず届きます」。
飽きさせずに伝える工夫
ただし、「同じ告知を7回繰り返せばよい」という話ではありません。大切なのは、“同じメッセージを、違う角度から”伝えることです。たとえば次のような工夫ができます。
第1回:店頭POPで伝える(視覚)→「新作焼き立てパン登場!」
第2回:Instagramで投稿(感情)→ 焼き上がりの香りや職人の想いを紹介
第3回:試食イベント(体験)→ 味わってもらい、記憶を強く残す
第4回:LINEで告知(リマインド)→ 「明日まで限定販売です」
第5回:お客さまの声(社会的証明)→ 「子どもが喜んで食べました!」
第6回:地域メディア掲載(信頼)→ 外部からの紹介で安心感を生む
第7回:再来店時に直接声かけ(関係)→ 「先日のお買い上げ、ありがとうございました!」
こうして7つの接点が揃ったとき、ようやく“伝わる”から“動く”へと変わります。
相手のタイミングに寄り添う
「認知の7回法則」が教えてくれるのは、お客様の“行動のタイミング”は、売り手の都合では決まらないということです。お客様には生活があり、予定があり、気分があります。その中で、たまたま7回目に見かけた瞬間が「今日は寄ってみよう」と心が動くタイミングなのです。
だからこそ、商人がすべきは「一度で決めよう」と焦ることではなく、淡々と、誠実に伝え続ける仕組みをつくることです。SNS投稿の継続、DMやニュースレターの定期配信、季節ごとのテーマ展示──。その一つひとつが“7回への道”です。
「伝えても伝わらない」と嘆くより、「届くまで伝えよう」と覚悟することは、これからの時代の商人に必要な姿勢ではないでしょうか。広告費の大小よりも、投稿の頻度よりも、何よりも大切なのは「伝え続ける意志」です。
7回目にようやく心が動くなら、8回、9回と続ければ、きっと誰かの記憶に残る。商いとは、伝えることをやめない勇気。その積み重ねこそが、地域に愛される店をつくるのです。






