笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

発信が苦手なあなたへ

「SNSが苦手で……」

 

そう口にする商人は少なくありません。何を書けばいいかわからない、続かない、反応が気になる――発信そのものが負担になってしまい、「自分には向いていない」と距離を置いてしまっています。

 

しかし、現場を丹念に見ていくと、むしろSNSが苦手な店ほど、語るべき物語を持っていると感じます。派手な演出や巧みな言葉に頼らず、日々の商いを積み重ねてきたからこそ、そこには体温のある時間が流れているのです。

 

物語はすでに店にある

 

SNSが得意な店と、苦手な店の違いは、表現力の差ではありません。本当の違いは「自分の商いを、言葉として振り返ってきたかどうか」にあります。

 

長く続いてきた店には、必ず物語があります。創業時の苦労、売れなかった時代、お客様に救われた経験、判断を誤った悔しさ――。ただ、それらはあまりにも日常で、あまりにも自分の人生と重なっているため、「特別な話ではない」と思ってしまいがちです。

 

一方で、SNSの世界にはテクニック論があふれています。映える写真、刺さる言葉、アルゴリズム対策――それらを前にすると、自分の商いが地味に見えてしまいます。

 

けれど、お客様が知りたいのは完成された投稿ではありません。この店は、どんな思いで今日も店を開けているのか――その一点なのです。

 

SNSが苦手なのは、語る価値がないからではありません。自分の物語を、まだ「商いの言葉」に置き換えていないだけなのです。そして、それはけっして難しいことではありません。

 

テクニックの縁は続かない

 

フォロワーを増やすための方法は、たしかに存在します。投稿タイミング、キャンペーン、ハッシュタグなどは短期的な反応を得るには有効でしょう。

 

しかし、テクニックで集まった関係は、同じテクニックで簡単に切れます。もっと派手な投稿、もっとお得な情報が現れれば、人は迷いなく移っていくものです。あなたが得たいお客様はそうした人たちでしょうか。

 

一方、商人の体温がにじむ発信は目に見えて拡散しません。「いいね」の数も多くないかもしれません。それでも、静かに読み続ける人が必ず存在します。

 

「この人の考え方が好きだ」「この店の空気が伝わってくる」と感じた人は、簡単には離れません。SNSは集客装置ではなく、関係を育てる場です。テクニックで人を集めるより、言葉で人とつながるほうが商いは長く続きます。

 

語るほど店は見える

 

発信とは、誰かに向けた行為であると同時に、自分の商いをたしかめる行為でもあります。言葉にすることで、「自分は何を大切にしてきたのか」「何を選ばなかったのか」が、初めて可視化されます。

 

なぜ、この商品を扱い続けているのか。
なぜ、この値段にしたのか。
なぜ、この一言をお客様にかけたのか。

 

それらはすべて、商人としての判断の記録です。語らなければ、判断は流れていきます。語ることで初めて、店の輪郭が言葉として立ち上がってくるのです。

 

さらに重要なのは、語ることで店主自身の覚悟が整うことです。言葉にした以上、離れてしまっても、その姿勢に引き戻されます。迷ったとき、「自分は何を語ってきたか」が次の判断の軸になります。

 

SNSが苦手な店ほど、言葉に慎重です。軽々しく断言せず、簡単に煽りません。だからこそ、一つひとつの言葉に重みがあるのです。

 

週に一度でも、月に数回でも構いません。「今日は、こんなことで悩んだ」「こんなお客様の一言が、胸に残った」というだけでも、十分に物語なのです。

 

体温で語る発信

 

発信しなければ、伝わらない。しかし、うまく語る必要はありません。自分ならではの“体温”で語りましょう。それは、正解を示すことではなく、迷いながらも商いに立ち続けている姿をそのまま置くことです。

 

SNSが苦手な店ほど流行に流されず、足元を見て商いをしてきました。だから、言葉にした瞬間、その店の姿勢ははっきりと伝わります。発信とは、自分を大きく見せる行為ではありません。これまで積み重ねてきた時間を、静かに差し出す行為です。

 

SNSが苦手な店ほど、語るに値する時間を生きてきました。その物語は、すでに店の中にあります。あとは、それを少しだけ、言葉にして外に置いてみるだけなのです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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