繁盛店を取材することが多いため、多くの人から「あの店は何をやっているか?」と聞かれます。どんな商品を扱い、どんな販促をし、どんな仕組みを導入しているのか、と。そのたびに私は、聞かれたことに誠実に答えるように努めてきました。
たしかに、それらは参考になります。しかし、長く続く繁盛店を丹念に見ていくと、もう一つの共通点が浮かび上がってきます。それは、意外なほど多くのことを“やっていない”という事実です。
流行をすぐに追いかけていない
繁盛店ほど、新しい流行に慎重です。SNSで話題になっている、同業が次々と始めている、セミナーで勧められた──。そうした情報を知らないわけではありません。むしろ、よく知っています。その上ですぐには動かないのです。
「うちのお客様はそれを本当に求めているか?」
「この店の文脈に合っているか?」
この二つを自分の言葉で説明できるまで、手を出しません。流行に乗ることより、自分の店の“軸”を守ることを優先します。結果として派手さはありません。しかし、店の軸はぶれません。だから客は、安心して通い続けることができます。
すべての客を追いかけていない
繁盛店は、「誰にでも好かれよう」としません。値引きを求める声、無理な要望、店の方針と合わない振る舞い。そうした客に対して、迎合しない勇気を持っています。
もちろん、客を大切にしないわけではありません。ただ、大切にする基準をはっきり持っているのです。「この店は、こういう価値を大事にしています」という姿勢を崩さないからこそ共感する客が残り、関係が深まっていきます。
すべての客を追いかけないことは、客を減らす行為と同じではありません。選ばれる理由をはっきりさせる行為なのです。あなたの店は1万人に利用される必要はありません。その100分の1、つまり100人の絆で結ばれたお客様に長く愛されていればいいのです。
忙しさを美徳にしていない
繁盛店の現場は、けっして慌ただしさを誇りません。忙しさを理由に説明を省いたり、表情を失ったりしません。忙しいときほど落ち着いて、一人ひとりのお客様に向き合います。
「忙しいから仕方ない」という言葉を繁盛店は使いません。なぜなら、忙しさは店の都合であって、お客様の都合ではないからです。忙しさを言い訳にし始めた瞬間、商いの主語が「自分」へと傾いていきます。
繁盛店は“暇”をつくる努力をしています。段取りを見直し、やらなくていい仕事を減らし、余白を残す。その余白がお客様への一言や、気配りを生みます。
売上だけで判断していない
繁盛店は数字を軽視していません。しかし、数字だけで決断もしません。売上が伸びる企画でも、店の空気を壊すならやりません。効率が上がっても、人が疲弊するなら見直します。
「この判断は、3年後の店にどう影響するか」――そんな時間軸で考えています。
短期の売上を追わないからこそ、長期で信頼が積み上がります。繁盛店の店主は、信頼を積み重ねるには長い時間が必要なことを知っています。数字は結果であって、目的ではない。その順番をけっして入れ替えないのです。
やらないことが店を強くする
繁盛店は特別なことをしているようで、実はとても静かな選択を重ねています。
流行を追いかけない。
すべての客に迎合しない。
忙しさを誇らない。
売上だけで決めない。
これらは、やらないほうが楽ではありません。むしろ、勇気が要ります。だからこそ、真似されにくく、簡単に崩れないのです。
やらないことを決めるとは、何を大切にするかを決めることです。その積み重ねが、店の姿勢となり、空気となり、信頼となっていきます。
繁盛とは、足し算の結果ではありません。不要なものを削ぎ落とした先に、静かに立ち上がってくるものなのです。







