笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

12月25日。街は一年で最も華やぎ、売場は忙しさの只中にあります。その日が、東洋大学名誉教授・川崎進一先生の命日であることを、どれほどの人が意識しているでしょうか。2001年12月25日、先生は91歳でこの世を去りました。

 

消費が最高潮に達するこの日に、商いの本質を問い続けた学者が逝った──。この事実は、いまなお私たち商人一人ひとりに、静かな問いを投げかけているように思えてなりません。売れるとは何か。商うとは何か。そして、商いは社会にとってどんな意味を持つのか。先生の問いかけは今も生きています。

 

商業界と倉本長治

──理念の火が灯された場所

 

川崎進一先生の歩みを語るうえで商業界創立者、倉本長治の存在は欠かせません。商業界は、単なる業界誌出版社ではありませんでした。そこは、商人が何者であるかを問い続け思想の道場でした。

 

倉本長治が掲げた「店は客のためにある」という言葉は、経営ノウハウではなく、商人として生きる覚悟そのものでした。売上や規模を誇る前に、その商いは本当に生活者の側に立っているのか──。倉本は、この問いを生涯手放しませんでした。

 

川崎先生はこの思想に深く共鳴しながらも、感情論や精神論で終わらせることはありませんでした。倉本が示した「商人のあり方」を社会に通用する言葉へ、学問として翻訳する。それが、川崎進一という学者に与えられた役割でした。

 

倉本が理念の火を灯し、川崎先生がそれを消えない知の光へと磨き上げたのです。この二人の思想的な連関があったからこそ、日本の商業は単なる技術論に堕することなく、理念を持った産業として成熟してきたのです。

 

小売業を

「社会の仕事」に引き上げた功績

 

川崎進一先生が日本の小売業界に果たした最大の功績は、小売業を「誰でもできる仕事」から、「社会的責任を担う専門的な仕事」へと引き上げたことにあります。先生が提唱した「消費者代位機能」という概念はその象徴です。

 

小売業とは、消費者に代わって商品を選び、比較し、編集し、最適な形で提供する存在である――。それは単なる中間業者ではなく、生活者の時間と判断を引き受ける社会装置だという位置づけでした。

 

この理論は、日本の小売業界に決定的な自信を与えました。安く売ることだけが価値ではない。便利であることだけが使命でもない。暮らしを支え、社会の効率と質を高める役割を担っている──。その認識を、大学教育、企業指導、商業界ゼミナールを通じて体系的に広めたことは計り知れない功績です。

 

高度経済成長期、チェーン化と効率化が加速するなかで、川崎先生は一貫して問い続けました。その合理化は誰のためのものか。その効率は生活者を幸せにしているのか。この問いは、AIやDXが進む現代において、むしろ一層の重みを持っています。

 

一心不怠、成長無限

──商人の背中を押した言葉

 

川崎進一先生の思想を語るうえで、決して欠かせないのが、座右の銘「一心不怠、成長無限」です。一つのことに心を尽くし、怠らずに続ける。そうすれば、成長に限界はない。この言葉は、講義や講演の結びとして、何度も語られました。とりわけ、商業界ゼミナールの場で、経営に悩み、将来に不安を抱える商人たちの胸に、深く刻まれたと言われています。

 

川崎先生は、決して派手な成功論を語りませんでした。売上が伸びないときも、時代の波に翻弄されるときも、「近道はありません。しかし、積み重ねた人だけが次の景色を見られる」と語り、「一心不怠、成長無限」という言葉を静かに示しました。

 

この言葉に励まされ、店を畳まずに踏みとどまった商人は少なくありません。成長とは、売上や規模の拡大だけではない。商いの質を高め、人として成熟することもまた成長である──。そのメッセージは、多くの商人の心の支えとなりました。

 

目の前の仕事に

心を尽くすのが真商人の務め

 

12月25日は、売れる日です。だからこそ、立ち止まって考えたいのです。この商いは、誰のためにあるのか。この努力は、社会にどう返っていくのか。そして自分は、今日も「一心不怠」であったか。

 

人口減少、物価高、人手不足、デジタル化の加速。環境は大きく変わりましたが、商人が直面する本質的な問いは、驚くほど変わっていません。うまくいかないときほど、商人は「効率」や「一発逆転」を求めがちです。しかし川崎先生は、そうした局面でこそ目の前の仕事に心を尽くし、歩みを止めないことの大切さを説きました。

 

成長とは、環境が与えてくれるものではない。自らの姿勢が呼び寄せるものである。その確信が「一心不怠、成長無限」という言葉には込められています。

 

・日々の商いを、社会の仕事として引き受ける
・近道を求めず、誠実な積み重ねを怠らない
・成長を、売上だけで測らない

 

12月25日。この日を、ただの繁忙日で終わらせないために、倉本長治が灯した商人の倫理の火を、川崎進一先生は理論と教育によって消えない光へと育てました。「一心不怠、成長無限」の言葉を胸に、今日も売場に立ち続ける商人がいます。その限りにおいて、川崎進一先生の功績はいまも確かに生き続けています。

この記事をシェアする
いいね
ツイート
メール
Picture of 笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


新刊案内

購入はこちらから

好評既刊

売れる人がやっているたった4つの繁盛の法則 「ありがとう」があふれる20の店の実践

購入はこちらから

Social Media

人気の記事

都道府県

カテゴリー