笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

値上げしても離れない客

「値上げしたら、お客様が離れるのではないか」

 

多くの商人が、いま最も恐れている問いでしょう。原材料費の高騰、人件費の上昇、物流コストの増加。努力だけでは吸収しきれない現実が値上げという決断を私たちに迫ります。

 

実際、値上げをきっかけに来店頻度が落ちたお客様もいるでしょう。しかし一方で、不思議な現象も起きています。値上げしても、離れなかったお客様がいるという事実です。それどころか、「これからも頑張ってください」と声をかけてくれる人さえいます。

 

この違いは、どこから生まれるのでしょうか。

 

客は「理由」を見ている

 

値上げに反発するお客様が見ているのは「数字」です。一方、離れなかったお客様が見ているのは、「なぜ、その価格なのか」という理由です。

 

ある惣菜店の話です。この店は原材料高騰を受け、主力商品の価格を一律50円上げました。店主は貼り紙一枚で済ませることもできたはずです。しかし、あえて店頭でこう語りかけました。「正直に言います。これ以上は、材料の質を落とさずに続けることができませんでした」。

 

長い説明ではありません。ただ、自分の言葉で逃げずに語った。その結果、常連客の反応は意外なものでした。

 

「安さより、ここで買う理由が大事だから」
「ちゃんと説明してくれるなら、納得できる」

 

お客様は値段の上げ下げ以上に、商人の姿勢を見ていたのです。

 

値上げ後も通い続けたお客様は、商品そのものだけを買っていたわけではありません。「この人から買いたい」「この店が続いてほしい」「自分の暮らしの一部であり続けてほしい」という関係性を、すでに購入していたのです。

 

だから、値段が変わっても、関係は簡単には切れない。むしろ、誠実に説明されることで、「応援する側」に立つお客様も生まれます。値上げは、お客様との関係を壊す行為ではありません。関係の強さを試される試練なのです。

 

値上げは商人の覚悟

 

値上げを恐れて、黙って量を減らす。
品質を少しずつ落とす。
説明を避け、曖昧にする。

 

こうした対応は、一時的に売上を守るかもしれません。しかし、お客様は必ず違和感をおぼえます。そして、その違和感は、言葉にされないまま、静かに離反へとつながっていきます。

 

反対に、値上げという「嫌われ役」を引き受け、正直に語る商人の姿は、お客様の記憶に残ります。お客様が見ているのは、この店は自分たちを欺かないか、苦しいときにどう振る舞うかという一点なのです。

 

すべてのお客様が残ることはありません。それでいいのです。価格だけを基準にしていたお客様は、静かに去ります。一方で、価値を共有していたお客様がよりくっきりと姿を現します。

 

値上げとは、顧客をふるいにかける行為ではありません。店の軸を明らかにする行為です。「何を守りたいのか」「どんな商いを続けたいのか」という答えが、価格という形で示されたとき、残るお客様は必ずいます。

 

価値で選ばれる道へ進む

 

値上げとは、単なる価格調整ではありません。それは「この商いを、どう続けたいのか」という問いを、商人自身に突きつける行為です。安さで選ばれる道を降り、価値で選ばれる道へ踏み出す決断とも言えるでしょう。

 

値上げしても離れなかったお客様は、過去を見ていたのではありません。これから先もこの店と付き合えるか、その未来を見ていたのです。だからこそ曖昧な説明ではなく、正直な言葉を求めました。

 

価格は、商いの結果であり、信頼の集積です。今日の値上げは、明日の関係をつくる行為でもあります。その覚悟を持って差し出した価格に応えてくれる客は必ずいます。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

「値上げしても離れない客」への1件のフィードバック

  1. ヨコタサイクル

    笹井さんのメッセージに、励まされました。
    ありがとうございます。
    価値をお客様に語り続ける事
    それが伝わったお客様がお買い上げいただき
    そしてその輪が広がっていけば、幸せな商いを継続できると思っております。
    いつも素敵なメッセージありがとうございます♪

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