令和7年8月8日――「葉っぱの日」。そのあまりに象徴的な日に、一本の訃報が静かに全国を駆け巡りました。
株式会社いろどり代表取締役、横石知二さん。かねてより療養中のところ、この日、66歳で永眠されました。取材でお会いしたのはもう15年以上前のことになりますが、今日の日本の課題をすでに見据え、解決に取り組む人物でした。
徳島市に生まれ、上勝町の山々と四季の葉に寄り添いながら歩んだ人生。葉っぱビジネスを通じて結ばれた農家の高齢者たち、全国の取引先、そして地域を支える仲間たち。横石さんは、その一人ひとりと丁寧に向き合い、必要としあう「ご縁」を町に編み込み続けてきました。

人が輝けば地域は必ず蘇る
その歩みは、上勝町という小さな山あいの町に新しい未来を灯しただけでなく、“人口減少と高齢化”という日本中が抱える大きな課題に、「人が輝けば、地域は必ず蘇る」という力強い答えを示しました。
ご逝去の報に触れ、多くの人が深い悲しみとともに思い出したのは、横石さんの温かな笑顔、そして山の葉のように静かで、しかし確かに光るその哲学でした。ここに生前のご厚情に深く感謝申し上げ、謹んで追悼の意を表するとともに──横石知二さんが残してくれた“希望の種”を、これからの商人がどう育てていくか。その道しるべとして、「10のヒント」をたどってまいります。
1 「ないもの探し」ではなく「あるもの磨き」
人口減少の地域では「ないもの」が山ほどあります。その現実を前に、多くの人は肩を落とします。しかし横石さんは、目の前の景色に違う意味を見ました。平地がないなら山を見ろ。作物がないなら葉っぱを見ろ。そうして上勝町の“当たり前の風景”は、価値に変わりました。商いでも同じです。足りないものを嘆くのではなく、“すでにそこにある宝”に目を向けて磨くこと。それが繁盛の源泉になります。
2 “高齢者は戦力外”という思い込みを捨てる
葉っぱビジネスを支えたのは70代、80代、そして90代の高齢者たちです。年齢は弱点ではありません。経験、観察力、勤勉さ──高齢者が持つ力は計り知れません。横石さんは「できない」のではなく、「できる環境がないだけ」と考えました。商売も同じです。人を“戦力外”と決めつけた瞬間、未来は狭くなります。役割を与えれば、人は年齢を超えて輝くのです。
3 “働くこと=生きること”を再設計する
横石さんが葉っぱを選んだ理由は、「高齢者にもできるから」。葉っぱは軽く、収穫はこまめにでき、品質が収入に直結する。朝起きたときに、“今日も出番がある”という感覚が人の心を力強く支えました。働くことは生きること──それを証明したのが上勝町でした。商売の現場でも同じです。「無理なく続けられる仕組み」を再設計することで、人が長く、誇りをもって働ける環境が生まれます。
4 ITは地方を救う“人間の杖”である
高齢者にタブレット? 多くの人が疑いました。しかし横石さんは「人が楽になるなら使う」と信じて環境を整えました。結果、平均年齢70歳のIT農家が誕生し、全国へ出荷する未来が開けました。ITとは、道具です。人を置いていく機械ではなく、人を支える杖。地方こそ、ITを味方につけることで飛躍できる余白が広がります。
5 競争は人を育てる“光”になる
売上ランキングを公開したとき、「あの人には負けられん」「もっと良い葉っぱを届けたい」と、高齢者の目に火が灯りました。競争は、追い落とすためのものではありません。互いを押し上げる光です。適切な仕掛けがあれば、組織も地域も驚くほど成長します。商人に求められるのは、対立ではなく、励まし合う競争文化を育てることです。
6 “地域資源 × 人材 × 情報”の掛け算こそ価値を生む
葉っぱという資源。高齢者という人材。市場とつながる情報。この三つが重なったとき、新しい価値は生まれます。商売も同じです。商品・人・情報という三つの要素を結びつけたとき、小さな店は飛躍し、地域は蘇る。「誰が、何を、どう活かすか」という問いこそが、未来を切り拓く鍵になります。
7 “誇り”は人を最も強くするエネルギー
「私の葉っぱを待っている人がいる」――この誇りが、高齢者を動かしました。誇りは、収入以上の価値を人に与えます。商売の本質も同じ。スタッフが誇れる店、お客様が誇らしく思える地域──その誇りの循環が、商いを強く、長く続くものにします。誇りを生むのは商人の仕事です。
8 小さな成功を積み重ね、未来につながる“習慣”に変える
葉っぱビジネスは、一夜にして成功したわけではありません。葉の大きさ、色、旬のタイミング、鮮度管理、梱包──ひたすら改善を繰り返し、品質を磨き上げていきました。成功とは特別な瞬間ではなく、小さな成功の積み重ねが習慣になることです。商売もまた、毎日の改善が未来をつくります。“昨日よりよい今日”を重ねれば、未来は必ず明るくなります。
9 外を見ることで、自分の価値に気づく
上勝町の葉っぱは国内を飛び越え、海外の料理人にも使われるようになりました。山あいの小さな町が世界とつながった瞬間です。外を見ることは、自分の価値を知ること。「商圏が狭い」「人が減った」と悩むときこそ、外の風を取り込みましょう。内側に閉じこもれば未来は縮みますが、外に開けば未来は広がります。
10 “人の尊厳”を守り抜くことが商いの原点
横石知二さんが最後まで大切にしていたのは、「人は誰しも、役に立ちたいと願う存在だ」という、人間への深い信頼でした。出番をつくり、役割を与え、誇りを育てる──その積み重ねが地域を救い、人を輝かせ、商いを力強くしていきます。人口減少の時代こそ、人を守り、人を活かす商いが求められています。

一人の男が遺した灯
横石さんの訃報は、あまりに早く、あまりに突然でした。しかし不思議なことに、その死は“終わり”ではなく、むしろ“問い”を私たちに残しました。
――あなたは、この地域の人を活かしきれているか。
――あなたは、この店の価値を磨ききれているか。
――あなたは、人の可能性を信じ抜いているか。
上勝町で芽吹いた葉っぱビジネスは、単なる成功物語ではありません。高齢者が主役になる社会をつくり、人口減少の町に誇りを取り戻し、“人が輝く商い”の本質を世界に示した、かけがえのない実践でした。
その精神は、今の日本にこそ必要です。人口減少、担い手不足、地域衰退──どれも深刻な課題です。しかし横石さんは「条件が悪いほど、人の力は発揮される」「人の尊厳を軸におけば、未来は必ず拓ける」ことを、人生と仕事で証明しました。
商売も同じです。あなたの店にも、地域にも、必ず“眠れる葉っぱ”があります。気づくか、磨くか、価値に変えるか──それは、あなたの一歩から始まります。どうか恐れないでください。どうか諦めないでください。商人は、地域の未来をつくる仕事です。そしてあなたには、その力がある。
今日も一歩、昨日より前へ。横石知二さんの残した灯は、これから商いを続ける私たちの胸の中で、静かに、しかし確かに燃え続けています。





