心理学者クルト・レヴィンが提唱した「変化の3段階モデル」は、組織や人が変化を実現するためのプロセスを「解凍(Unfreeze)」「変化(Change)」「再凍結(Refreeze)」の3つに整理した理論です。
人間は安定を求める生き物です。だからこそ、どれほど合理的で正しい提案であっても、現状を変えることには本能的な抵抗を示します。レヴィンは、この「人は変化を嫌う」という前提を直視し、その抵抗を乗り越える道筋を示したのです。
第一の段階「解凍」とは、現状のやり方や価値観を揺さぶり、変化の必要性を認識させることです。次の「変化」では、新しい方法や習慣を試しながら実践し、行動を変えていきます。そして最後の「再凍結」で、新しいやり方を定着させ、習慣や文化として根づかせる。これがレヴィンの描いた変化のサイクルです。
スーパーのセルフレジ導入
この理論を身近な例で考えてみましょう。ある地域のスーパーがセルフレジを導入したときのことです。最初、常連客の多くは「慣れた有人レジのほうが安心」「機械は難しそう」と抵抗感を示しました。まさに変化を嫌う人間の心理そのものでした。
そこで店はまず「解凍」として、店頭に案内係を立て、有人レジとセルフレジの違いを丁寧に説明しました。さらに「お急ぎの方には便利です」と、導入の利点を具体的に伝えました。
次に「変化」の段階として、スタッフが一緒に操作を手伝いながら、実際に利用してもらう機会をつくりました。最初は戸惑っていたお客様も、数回体験するうちに「意外と簡単だね」と声をかけてくれるようになりました。
最後に「再凍結」です。セルフレジの利用者が増えたタイミングで、有人レジの数を段階的に減らし、「セルフが当たり前」という環境を定着させました。すると、多くの顧客が自然にセルフレジを使うようになり、今では効率的に買い物を済ませるスタイルが地域に根づいています。
このプロセスはまさにレヴィンの法則そのものでした。もし「解凍」のプロセスを飛ばしていきなり「変化」を迫っていたら、強い反発を受けて導入は失敗に終わっていたかもしれません。

最初の一歩が二歩目に続く
商人にとっても、変化の3段階モデルは大きな示唆を与えます。新しい商品を導入するとき、新しいサービスを始めるとき、あるいは値上げを行うとき──そのすべてに、顧客や従業員は「変化への抵抗」を示すものです。
最初の一歩として大切なのは、「解凍」を意識することです。つまり、変える前に「なぜ変えるのか」を伝えることです。「物価上昇で仕入れが高騰している」「新しいサービスのほうが便利になる」といった背景を丁寧に共有することで、顧客や従業員の心に“納得の余地”が生まれます。
次の二歩目は「小さな変化を体験してもらうこと」です。新商品なら試食を、小さな店舗改装なら一部の棚だけを先に変えるなど、段階的に慣れてもらう工夫をしましょう。その積み重ねが「再凍結」につながり、やがて新しいやり方が“日常”として受け入れられていきます。
変化を嫌うのは自然なことです。だからこそ「解凍→変化→再凍結」という3段階を意識することが、商人にとって確かな武器になります。新しい挑戦を恐れるのではなく、そのプロセスを味方につけること。それが、これからの時代を生き抜く商人の姿勢といえるでしょう。







