笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「イノベーションのジレンマ」とは、ハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授が提唱した理論です。大企業や優良企業が、顧客の声を真摯に聞き、技術を改良し続けるほど、やがて新興勢力に市場を奪われてしまう現象を指します。

 

なぜこのような逆説が起きるのでしょうか。理由はシンプルです。

 

既存顧客が求めるのは「性能の向上」や「品質の安定」であり、企業はそこに全力を注ぎます。しかし、その間に別の土俵から「低価格で十分」「使いやすさが大事」といった新しい価値軸を掲げる製品やサービスが登場し、じわじわと勢力を伸ばしていくのです。

 

やがてその“異端”は、性能的にも既存製品に追いつき、主流市場を席巻します。既存の強者が努力を怠ったのではなく、むしろ努力を続けた結果、顧客の声に忠実であったがゆえに見失ったものがあった──これがジレンマの本質です。

 

日本のカメラ業界の変化

 

典型的な例が、日本のカメラ業界です。長らく一眼レフメーカーは「より高画質」「より高性能」を追求し続け、世界的な地位を築きました。確かにプロやカメラ愛好家には歓迎されましたが、その高機能化と高価格化は、一般消費者にとっては敷居の高いものとなっていきました。

 

その隙間に登場したのが、スマートフォンです。当初のカメラ性能は一眼レフに遠く及ばなかったものの、「持ち歩ける」「すぐ撮ってすぐ共有できる」という新しい価値を提示しました。SNSの普及とともに、画質よりも「便利さ」「瞬間を残せること」が重視され、ユーザーの大多数はスマホに流れていきました。

 

いまやスマホのカメラ機能は進化を続け、一部の用途ではプロ仕様に迫るほどです。カメラメーカーは依然として一眼レフの高度な性能を磨き続けていますが、かつての市場規模を取り戻すのは容易ではありません。この現象こそ「イノベーションのジレンマ」が実際に起きた例といえるでしょう。

 

最初の一歩が二歩目に続く

 

「イノベーションのジレンマ」を学ぶことの価値は、既存の延長線だけではなく、異なる価値基準から市場を見る視点を養うことにあります。商人にとっては特に大切な教訓です。

 

たとえば、店の主力商品が長年の定番であればあるほど、「改良すべきは味」「さらに良い素材を」と考えがちです。しかし、顧客が求めているのは必ずしも“最高の品質”ではありません。「少量でいいから気軽に試したい」「包装が環境に優しい方がいい」など、新しい選択基準が出てきているかもしれません。

 

最初の一歩として、日々のお客様の会話に耳を澄ませ、これまで気にしてこなかった“価値観の変化”を拾い上げてみてください。二歩目として、それを小さな実験に移しましょう。たとえば、商品を少量サイズで販売してみる、持ち帰りやすい形に工夫する、といった取り組みです。

 

大切なのは、大きな変革を一気に起こすことではなく、小さな変化を積み重ねて、新しい価値を自らのものにしていくことです。顧客の“当たり前”が変わる時代、その変化を見逃さずに取り入れる柔軟さこそが、次の繁盛をつくります。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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