「なんとなく気になる」「なぜか安心する」――私たちは理屈ではなく「接触の回数」で相手への印象を形づくっていることが少なくありません。心理学者ロバート・ザイアンスが提唱した「単純接触効果」、通称「ザイアンスの法則」は商人にとっても大切なヒントを与えてくれます。
ただ会うだけで、親近感は育つ
ザイアンスの法則はとてもシンプルです。人は接触回数が増えるほど、その対象に好意を持ちやすくなる。特別な会話や出来事がなくても、「何度も顔を合わせる」「何度も情報に触れる」だけで、信頼や親しみが積み重なっていくのです。
たとえば、朝の通勤途中に毎日見かけるコンビニの店員。言葉を交わさなくても、毎朝笑顔を見ているうちに「この人、感じがいいな」と思うようになる。これも立派なザイアンス効果です。
ある雑貨店の小さな工夫
宮崎県のある商店街の雑貨店は、売上が伸び悩んでいました。原因は常連客の来店頻度の低下。そこで店主は思い切って「会わなくても会っている感覚」をつくることにしました。
始めたのは週に一度のLINE配信。写真一枚と短いひとことを添えるだけです。たとえば「今日は秋色のカップが入荷しました。実は私も欲しいと思っていた品です」。ポイントは「商品情報」よりも「店主の人柄」がにじむこと。
数カ月後、常連客から「LINE見てたら行きたくなっちゃって」との声が相次ぎ、来店頻度は1.3倍に増加しました。「店主の顔が浮かぶ」「会った気がする」という小さな積み重ねが、来店の動機を生んだのです。
「押しつけ感のない接触」が鍵
接触回数を増やすといっても、広告やセール情報を一方的に送りつけるのは逆効果です。お客様が欲しいのは「売り込み」ではなく「つながりの実感」です。
・今日の天気と店主のひとこと
・仕入れで出会った小さな驚き
・スタッフの笑顔の写真
そうした何気ない発信こそが、お客様の心を和ませ、「また会いたい」という気持ちを育てます。その意味で発信はラブレターのようなものです。
お客様との距離を近づける仕掛け
ザイアンスの法則を商売に活かす方法は、難しくありません。
SNSやLINEを使って、定期的に小さな情報を届ける
毎週同じ曜日、同じ時間に配信するだけで「習慣」が生まれます。
店頭で顔を合わせたときに、必ず笑顔であいさつする
会話がなくても「あ、またこの人だ」と安心感が積み重なります。
POPや看板で「店主の言葉」を伝える
「おすすめです」ではなく「私が好きです」という人間味のある表現が心を動かします。
接触の回数を意識的に増やすこと。それは「お客様との距離を近づける仕掛け」を用意することなのです。
最初の一歩が二歩目に続く
ザイアンスの法則は「会うほどに好きになる」という、人の心の自然な働きを表しています。商人にとってこれは、大きな力です。特別なセールや派手な広告を打たなくても、日々の小さな積み重ねが確実に信頼を育てるからです。
今日からできることは何でしょうか。まずは一人のお客様を思い浮かべ、その人に週一度「ちょっとしたひとこと」を届けてみましょう。LINEでも、手書きのカードでも、あるいは声かけでも構いません。
「あなたを思い出しています」という小さな接触は、必ずお客様の心に届きます。やがてそれが「また会いたい」「また行きたい」という動機になり、店の未来を温かく支えてくれるのです。







