商いとは人を相手にする仕事である――この言葉に異を唱える人はいないでしょう。では、「人」とは何でしょうか。その答えを、2500年前に考え抜いた思想家がいました。それが、儒家の思想を継承しつつ、より人間の心と志を深く説いた孟子です。
孟子は、商いの技術ではなく、「何のために商いをするのか」「人としてどう在るべきか」という問いに明確な道を示してくれる思想家です。今回は、その教えから、商いに活かせる3つの視点を紹介します。
「民を貴しと為す」──顧客第一ではなく顧客本位
孟子は「民を貴しと為し、社稷を次と為し、君を軽しと為す」(尽心下)と述べています。これは、「いちばん大切なのは民(人々)であり、次に国家の制度、いちばん軽いのが為政者だ」という、当時としては非常に革新的な「民本主義」の思想です。
この考えは、商いにおいても非常に重要です。ただ「お客様第一」ではなく、「お客様の暮らしや想い、心の豊かさを第一に考える」という姿勢が問われています。
たとえば、便利さや価格ばかりを追うのではなく、お客様の未来や健康、地域の持続可能性に目を向けた提案ができているか。表面的なニーズではなく、深層の願いや価値観を汲み取ることこそ、孟子の説く「民を貴ぶ」商いです。
「誠と信」──商いの根本は信義にあり
孟子の教えの中で重要な徳のひとつに、「信(まこと)」があります。「誠者、天之道也;誠之者、人之道也」(離婁下)、つまり「誠(まこと)であることは天の道、まことを尽くすことは人の道」という意味です。商いの世界でしばしば口にされる「信用商売」という言葉。その源流はまさに孟子のこの思想にあると言ってよいでしょう。
お客様との約束を守る。欠点を隠さず伝える。売らんがための誇張や偽りをしない。こうした当たり前のことが、今、もっとも求められているのかもしれません。
ある地方の味噌蔵では、長年かけて自然発酵で仕上げた味噌を、「今年は熟成に時間がかかって、出荷が遅れます」と堂々と知らせます。その「正直さ」こそが顧客との信頼を築き、かえってファンを増やしているのです。
「志ある者は気短からず」──志こそ商いの原動力
孟子は「志ある者は、気短からず」(告子下)と、困難に直面したときこそ、志を持ち続けることの大切さを説いています。つまり、志を持つ者は、目先のことに一喜一憂せず、長い目で物事を見るという意味です。
商いもまた、日々の売上や景気の変化に左右されがちですが、「何のために商いをしているのか」という志が明確であれば、軸がぶれません。たとえば、「地元の子どもたちに、安心して食べられるパンを届けたい」と開業した小さなベーカリーがあります。素材や製法にこだわり続ける姿勢に共感が広がり、地域の人々の応援で成り立っています。志が商いを支え、商いが志を育てているのです。
商いの「道」は、人の「心」に通ず
孟子は、人間には生まれながらにして「仁・義・礼・智」の四つの徳の芽(四端)が備わっていると説いたことも知られています。それらを育て、広げることが人の務めであり、それは商いにおいても同じです。
数字やノウハウだけではなく、「人の心を尊ぶこと」「正しさを追求すること」「志を掲げてあきらめないこと」。これこそが、孟子の教えに基づいた、持続可能な商いの道です。孟子に学ぶべきは、繁盛の「術」ではなく、商いの「道」。その道を歩む者にこそ、お客様の心は自然とついてくるのかもしれません。







