100年以上の時を超えて、ふたたび海を渡ろうとしている“工芸品”があります。単に古いだけではなく、そこには時代に即した挑戦の姿勢が宿り、今を生きる私たちの心を揺さぶります。
それは、かつて英国の上流階級に「エキゾチックで精緻」と称され愛された、日本が誇る木工芸――仙台箪笥。東北・宮城の地で育まれたこの工芸品が、再び世界へと踏み出す日が近づいています。
しかし今回の挑戦の本質は、海外進出そのものではありません。真の目的は、「この技術と文化を、未来につなぐこと」にあるのです。

風雪に耐えて今なお輝く伝統工芸
仙台箪笥は、江戸時代後期にその起源を持ちます。武士の道具入れとして始まり、やがて婚礼家具や嫁入り道具として東北一円で愛されてきました。
特徴は、堅牢な欅や栗の木を素材に、漆塗りによって生まれる深い赤みと艶。そして、龍や唐獅子、牡丹などの文様が施された重厚な金具装飾です。それらが一体となって生み出す“気品”は、単なる家具の域を超え、一種の美術工芸品とも言えるでしょう。
しかしながら、戦後の生活様式の変化、大量生産家具の台頭、そして職人の高齢化と後継者不足により、仙台箪笥は長らく厳しい風にさらされてきました。いま、その灯を消さぬため、協同組合を中心とした職人たちが立ち上がっています。

異国で広がる“受け継ぐ技”の共感
ロンドンにある日本文化の発信拠点「JAPAN HOUSE LONDON」にて、仙台箪笥の実演イベントが開催されます。2025年7月17日から19日の3日間、仙台箪笥の魅力を多角的に紹介するこのイベントは、新たな需要の開拓と認知度向上を目的としています。
会場では、三つの工程(木工・塗り・金具)を担う職人たちによる製作実演に加え、「仙台箪笥の過去・現在・未来」と題したセミナーや、自分だけのミニ箪笥を作るワークショップなど、多彩なプログラムが用意されています。
さらに、イベント開催期間を含む約2カ月にわたり、館内のショーウィンドウでは仙台箪笥の展示も行われ、既存商品の販売機会も得ています。歴史を語る逸品に触れながら、日本の伝統工芸の美と機能性を五感で体験できる貴重な場となるでしょう。
期間中は、現地の消費者や文化関係者だけでなく、メイド・イン・ジャパン製品を扱う店舗バイヤーなどとも積極的に交流し、今後の商品開発や欧州での販路拡大につながることが期待されています。

若手育成というもう一つの柱
このプロジェクトのもう一つの重要な目的は、職人の後継者を育てることです。伝統技術は書籍や動画では伝えきれません。現場での肌感覚、木や漆の匂い、金槌の音、師匠の背中――それらすべてが“学び”であり“文化”なのです。
そこで仙台箪笥協同組合では、若手育成プログラムを本格化させました。インターンを受け入れ、実地での指導を行う体制を整え、クラウドファンディングで得た資金を、教育費や材料費、謝金に充てる予定です。
伝統とは、継承してこそ意味を持ちます。この取り組みは、まさに“未来の職人”にバトンを渡すための架け橋となることをめざしています。
応援で技と誇りを次代へとつなごう
現在、クラウドファンディング「READYFOR」にて支援募集が行われており、150万円を目標にしています(締切:2024年7月31日)。このプロジェクトにおけるクラウドファンディングの意義は大きく三つあります。
共感と参加の広がり
支援者は単なるスポンサーではありません。プロジェクトの“仲間”であり、望む未来を共有する“同志”です。自らの応援が技術と文化を未来につなぐ力になるという実感が、さらに応援の輪を広げるのです。。
物語の共有
「100年ぶりに海を渡る」というストーリーには、誰もが心を動かされます。伝統を絶やさぬために立ち上がる職人たちの姿は、時代を超えた共感を呼ぶのです。
挑戦の可視化
クラウドファンディングという形式は、取り組みの透明性を担保しながら、プロセスそのものを発信できる強みがあります。支援者は完成品だけでなく、成長と挑戦の“物語”に触れることができるのです。

工芸と商いの未来に向けて
今回の仙台箪笥の挑戦は、ただの伝統工芸品のPR活動ではありません。それは「受け継ぐ文化とは何か」「ものづくりとは何か」という、時代を超えた問いかけでもあります。ものづくり、それは日本が世界に誇る技術であり、そこに息づく精神は日本そのものです。
海外での展示と実演、そして若手育成の試みを通して、工芸と商いの未来が見えてくるでしょう。“商いとは人に尽くすこと”という理念は、まさにこうした現場に息づいています。仙台箪笥協同組合の代表理事を務める湯目研一郎さんは、1871年創業の老舗「湯目家具」の7代目。「減り続ける職人を守ってほしい」という仙台である父の遺言を守ることが、すなわち未来をつくることだと確信しています。
技と心と志。仙台箪笥がそれを携えて、ロンドンの地に再び羽ばたく姿は、日本人すべてに誇りと希望を届けてくれるはずです。







