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商店街プレミアム商品券は売れる、問題はその後

雨の中、商店街に列ができていました。傘を差した人たちが、販売開始を待ちながら、少しずつ前へ進んでいきます。目的は、プレミアム付商品券です。横浜市南区の弘明寺商店街では、5,000円分の商品券を4,000円で販売し、2日間で用意した3,750冊が完売したと報じられました。強い雨の日にもかかわらず、販売開始前から列ができ、両日とも販売開始から約2時間で売り切れたといいます。

 

この光景を見ると、商店街にはまだ力があると感じます。人は、安く買える機会には敏感です。家計が厳しい時代ですから、少しでも得をしたいと思うのは当然です。物価高が続く中で、プレミアム付商品券は生活者にとってありがたい支援です。同時に、商店街にとっては来街のきっかけをつくる有効な手段でもあります。

 

ただし、ここで考えたいことがあります。商品券が売れたことは成功です。しかし、商店街の本当の成功は、その後にあります。商品券を買った人が、どの店で使い、何を感じ、次に現金でもう一度来てくれるか。そこまで設計できて初めて、商品券は単なる割引施策ではなく、商店街を強くする入口になります。

 

 

商品券は集客策ではなく関係づくりの入口

 

プレミアム付商品券の魅力はわかりやすいものです。4,000円で5,000円分使えるなら、買わない手はありません。お客様にとっては家計支援であり、商店街にとっては消費喚起です。横浜市も、物価高騰に直面する生活者支援と地域経済活性化を目的に、商店街が発行する商品券事業を支援しています。

 

けれども、商いの視点で見るならば、商品券は「人を集めるための道具」で終わらせてはいけません。商品券で来たお客様は、まだその店の固定客ではありません。得だから来た人です。近いから来た人です。使える期限があるから来た人です。その人を、もう一度来たい人に変えられるかどうかが、店の力です。

 

商品券事業で起きやすいのは、期間中だけ売上が増え、期間が終わると元に戻ることです。これでは、せっかく行政の支援を受け、商店街が手間をかけて実施しても、瞬間的な賑わいで終わってしまいます。もちろん、一時的な売上増も大切です。けれども、それだけでは商店街の未来は変わりません。

 

大事なのは、商品券で初めて来たお客様に、店の存在を覚えてもらうことです。いつも通りの接客で終わらせるのではなく、「この店はいいな」「この人から買いたいな」「次は家族を連れて来よう」と思ってもらうことです。商品券の価値は、割引額にあるのではありません。お客様との接点をつくれることにあります。

 

 

使われる店と記憶に残る店は違う

 

商品券期間中には、ふだんより多くのお客様が来ます。そこで店が考えるべきことは、売ることだけではありません。覚えてもらうことです。商品券は使われれば終わります。しかし、店の印象は残ります。ここに大きな違いがあります。

 

例えば、レジで「商品券使えますよ」と言うだけの店と、「今月はこの商品がよく出ています。次はこの使い方もおすすめです」と一言添える店では、残る印象が違います。飲食店なら、「次はランチもぜひどうぞ」と声をかける。食品店なら、「今日はこれが一番いい状態です」と伝える。衣料品店なら、「秋口まで使えます」と着用場面を教える。こうした一言が、商品券で来たお客様を、店のお客様に変えていきます。

 

店は、商品券を「値引き客が来る期間」と受け止めてはいけません。むしろ、ふだん接点のない人に店を知ってもらえる貴重な期間です。普段は前を通り過ぎていた人が、初めて店内に入る。名前は知っていたが買ったことのなかった人が、初めて商品を手に取る。これは大きな機会です。

 

そのためには、商品券期間中こそ、店頭を整える必要があります。入口におすすめ商品を置く。初めての人にもわかるように価格表示を明確にする。人気商品だけでなく、店の考え方が伝わる商品を見せる。レジ横には次回来店につながる案内を置く。小さな工夫ですが、それが「使われる店」から「記憶に残る店」への分かれ目です。

 

商店街全体でも同じです。商品券を販売して終わりではなく、使える店の魅力をどう伝えるかが問われます。参加店一覧だけでは足りません。「夕食の買い物に便利な店」「子ども連れで寄れる店」「手土産に向く店」「雨の日でも立ち寄りやすい店」など、生活場面に沿って紹介すると、お客様は回遊しやすくなります。

 

 

もう一度来る理由を用意する

 

商品券事業の最大の課題は、使用後の空白です。商品券を使い切ったお客様に、次回来店の理由がなければ、関係はそこで止まります。だからこそ、店は商品券が使われている最中に、次の来店理由を用意しておく必要があります。

 

難しい仕組みでなくてもかまいません。次回使える小さな案内を渡す。季節商品の入荷日を知らせる。常連客が買っている定番品を紹介する。店主のおすすめを手書きで掲示する。LINEやニュースレターに登録してもらう。商店街全体で「次に来る楽しみ」を用意する。これらはすべて、商品券の効果を一回で終わらせないための工夫です。

 

特に中小店に必要なのは、価格ではなく理由を売ることです。商品券期間中は、価格の得が来店動機になります。しかし、期間が終われば得は消えます。そのときに残るのは、店の人柄、商品の良さ、買いやすさ、相談しやすさ、地域とのつながりです。つまり、日常の商いそのものです。

 

お客様は、安かった店を必ず覚えているわけではありません。しかし、感じのよかった店は覚えています。自分に合うものを教えてくれた店は覚えています。子どもに声をかけてくれた店、荷物を持ちやすいように袋詰めしてくれた店、買わなくても気持ちよく送り出してくれた店は、記憶に残ります。

 

商品券は、商店街に人を呼び戻すきっかけになります。しかし、商店街を本当に支えるのは、商品券ではありません。そこで働く人の言葉であり、店の誠実さであり、また来たくなる体験です。

 

雨の日に列ができるほど、人は商店街に期待しています。得をしたいという気持ちの奥には、近くに安心して買える場所があってほしいという願いもあります。その期待に応えるために、商店街は商品券を売るだけでなく、お客様との関係を育てる場にしなければなりません。

 

商品券で人は来ます。けれども、もう一度来る理由は、商品券だけではつくれません。もう一度来る理由をつくるのは、一軒一軒の店の仕事です。商店街の未来は、販売当日の行列ではなく、その後の再来店に表れます。にぎわいを一日に終わらせず、関係を明日につなぐ。その意識を持てたとき、商品券は単なる支援策ではなく、商店街を育てる力になります。

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