小売業近代化への胎動
休日のポストに届いたのは日本商業学会の碩学、石原武政先生の新著『小売業近代化の胎動』。日本における小売業の近代化は1904年、三越の「デパートメント宣言」に始まる百貨店が主導したというのが定説ですが、それに対して石原先生は戦前期の中小小売業の動向に光を当てられています。そこに通底するのは、彼らの対するあたたかい視線と、彼らの末裔に対する大きな期待でした。
「街商人(まちあきんど)」と言われた彼らは、成長志向の強い企業家商人と比較すれば、「決して成長し、成功したわけではないが、自らが住み、生活する地域に目を向け、地域の伝統と文化を守り、コミュニティの維持に貢献してきた」と石原先生。その精神は今日の商店街や協同組合、ボランタリーチェーンなどの取り組みに受け継がれています。私が支持する商業界創立者・倉本長治の仕事も、私が関わる日本専門店会連盟という地域商業者の活動もこうした大河の流れの中にあると言っていいでしょう。
本書では街商人たちの近代化への足跡を、小売市場(第1章)、同業組合(第2章)、商店街発行の共通商品券(第3章)、商業業組合と商店街商業組合(第4章)、ボランタリーチェーン(第5章)、産業組合と商権擁護運動(第6章)、商業労働と使用人問題(第7章)、そして百貨店法の制定(第8章)に分けて詳述。そこには共同事業を通じて地域とともに近代化を図ろうとする先人たちの営みがあります。
残念ながら、日本が戦時体制に突入していくと、彼らの挑戦は大きな力によって中断を余儀なくされます。戦後の復興期まで足踏みをすることになりました。しかし、彼らの情熱は時代を超えて、現代の街商人たちにも受け継がれています。
「先人たちが苦境の中で取り組もうとした意気込みやそこで経験したことは、今日の問題にもさまざまな教訓と合意をもっているように見える。その意味で、彼らの取り組みは決して無駄ではなかったし、それらを改めて再評価することの意義は決して小さくない」(本書365ページ)
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ――とは、19世紀ドイツの鉄血宰相、ビスマルクの言葉。歴史を学ぶとは現代を考え、未来を良くすること。400ページ近い大著を少しずつ読み進めていきます。下の写真は、2020年7月、大阪で松井洋一郎さん、長坂泰之さん、新雅史さんと石原先生を囲んだ食事会の一枚。石原先生、ありがとうございます。
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