笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

おもてなしはサービスではない?

「おもてなし」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。高級旅館の丁寧な接客、ホテルの行き届いたサービス、料理店での気の利いた応対。けれども、本来の「おもてなし」は、豪華なサービスを意味する言葉ではありません。語源をたどると、むしろ商いの原点に近い言葉であることがわかります。

 

 

「何をするか」より
「どう振る舞うか」が大切

 

「おもてなし」は、動詞の「もてなす」から生まれた言葉です。「もてなす」は漢字で「持て成す」「もて成す」と書き、古くは「人を取り扱う、取り計らう、ある態度で接する」といった幅広い意味で使われていました。そこから次第に「客に心を配って接する」「歓待する」という意味が強くなっていきます。

 

ここで大切なのは、「もてなし」がもともと、料理を出す、贈り物をする、特別なサービスを提供するといった「何かを与えること」だけを指していたのではないという点です。古典では「振る舞い」「身のこなし」「取り計らい」といった意味でも使われています。

 

そう考えると、おもてなしの本質は「何をしてあげるか」ではありません。相手に対して、自分がどう振る舞うかにあります。

 

「おもてなしとは、表も裏もないから『表なし』なのだ」という説明もよく耳にします。これは語源ではありません。しかし、「裏表のない心で相手に向き合う」という解釈は、おもてなしの精神を巧みに言い表しているように思います。

 

 

サービスは「すること」
おもてなしは「気づくこと」

 

では、サービスとおもてなしは何が違うのでしょう。飲食店なら、水がなくなれば注ぐ。注文を受ければ料理を運ぶ。会計を正確に行う。これはサービスであり、もちろん大切な営みです。誰に対しても一定の品質で提供できることは、商売の基本です。

 

けれども、おもてなしはその一歩先にあります。寒そうなお客様を見て、入口から離れた席へ案内する。杖をついた人なら、歩く距離の短い席をすすめる。小さな子どもを連れた家族なら、料理を少し早めに出せないか厨房に相談する。いつものお客様がいつもと違う表情をしていたら、「今日はどうされましたか」と声をかける。

 

いずれも、立派なマニュアルがなければできないことではありません。必要なのは、相手を見ることです。だから私は、サービスとおもてなしの違いを、「サービスは『すること』であり、おもてなしは『気づくこと』である考えています。

 

気づかなければ、心を配ることはできません。そして気づくためには、お客様を「客」というひとくくりの存在として見るのではなく、目の前の一人の人として見なければなりません。

 

商売では、ともすると「何を売るか」に意識が向きます。品揃えを増やす。新商品をつくる。広告を出す。SNSを活用する。どれも必要です。しかし、お客様が「また来たい」と思う理由は、商品だけではありません。「自分を大切にしてくれた」という感覚が人を店へ戻します。

 

 

おもてなしとは
商人の姿勢である

 

商品について迷っているお客様に、高い商品ではなく、「こちらのほうがお客様には合うと思います」と安い商品をすすめる。目先の売上だけを考えれば、損をしたように見えるかもしれません。

 

しかし、お客様の心には別のもの、つまり「この人は、売ろうとしているのではない。私のことを考えてくれている」というあたたかい感情が残ります。そこで生まれるのが信頼です。

 

商いで本当に積み上げるべきものは、一回ごとの売上だけではありません。「この店なら大丈夫」「この人なら相談できる」という信頼です。おもてなしとは、その信頼を生み出す日々の小さな振る舞いにほかなりません。

 

豪華な設備はいりません。特別な演出も必要ありません。まず必要なのは、目の前の人をよく見ることです。そして、「この人はいま、何を感じているのだろう」「どうしたら少し気持ちよく過ごしてもらえるだろう」と想像することです。

 

「もてなす」という言葉が「振る舞う」「取り計らう」という意味を持っていたことを考えると、おもてなしとは、相手に何かをしてあげることではなく、相手を思い、自分の振る舞いを整えることなのではないでしょうか。だから、おもてなしは接客技術ではありません。商人の姿勢そのものです。

 

商品は真似されます。価格も真似されます。サービスさえ、やがて真似されます。しかし、その店の人が一人のお客様をどう見て、何を感じ、どう振る舞うか。そこから生まれる関係までは、簡単には真似できません。小さな店にとって、ここに大きな可能性があります。規模では大企業にかなわなくても、一人のお客様を見る深さなら負ける必要はないからです。

 

今日、店に来てくださった一人を、昨日より少し丁寧に見る。名前を覚える。表情を見る。迷いに気づく。声の調子に耳を澄ます。おもてなしは、大げさなことではありません。目の前の一人を、その他大勢にしないこと。そこから、商いは始まるのです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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