前回取り上げた人時売上高は、1人1時間あたり、どれだけの売上を生み出しているかを見る数字でした。人手不足が続く中で、限られた人と時間をどう生かすかを考えるうえで、大切な指標です。
しかし、売上だけでは、働きの本当の成果は見えません。売上は大きくても、粗利益が薄ければ、店に残るお金は少なくなります。忙しく働き、たくさん売っているのに、利益が残らない。そのような状態を見抜くために見ておきたい数字が「人時粗利益高」です。
人時粗利益高とは、従業員1が1間働いたとき、どれだけの粗利益を生み出しているかを示す数字です。計算式は、粗利益高を総労働時間で割ります。たとえば、1の粗利益高が24万円で、その日に働いた人の合計労働時間が60時間であれば、人時粗利益高は4000円です。つまり、1人1時間あたり4000円の粗利益を生み出したことになります。
この数字が大切なのは、店を支えるのは売上高そのものではなく、売上から原価を差し引いた粗利益だからです。家賃、人件費、光熱費、販促費、設備費などの経費は、この粗利益からまかなわれます。いくら売上があっても、粗利益が十分に残らなければ、店は続けていくことができません。
売上ではなく残る利益で働きを見る
計数管理に慣れていない人は、まず「売上」と「粗利益」の違いを押さえるとわかりやすくなります。売上は、お客様が支払った金額です。粗利益は、そこから商品の原価を引いて、店に残る利益です。売上高が同じでも、粗利益率が違えば、店に残るお金は大きく変わります。
たとえば、売上高が10万円でも、粗利益率が20%なら粗利益は2万円です。粗利益率が40%なら粗利益は4万円です。同じ10万円の売上でも、店を支える力は倍違います。人時売上高だけを見ていると、この違いを見落としてしまいます。
人時粗利益高を見ると、人の時間がどれだけ店の利益につながっているかが見えてきます。売上は高いが粗利益の薄い商品ばかりを売っている時間と、売上はそれほど大きくなくても粗利益の高い商品をきちんと提案できている時間では、店への貢献度が違います。忙しさだけでなく、利益を残す働き方を見つめるための数字です。
ただし、人時粗利益高は、人を急がせるための数字ではありません。短時間で多く売れ、利益が残ればよいという単純な話ではないのです。お客様に必要のないものを売り込めば、一時的に粗利益は上がっても、信頼は失われます。大切なのは、お客様にとって価値のある商品を、納得して買っていただき、その結果として粗利益を残すことです。
この数字は、値引きの影響も教えてくれます。値引きをすれば売上はつくりやすくなります。しかし、粗利益は削られます。人時売上高は悪くなくても、人時粗利益高が下がっている場合、値引きや低粗利商品の販売に頼りすぎている可能性があります。売上を追うあまり、働く人の努力が利益として残っていないのです。
人の力を粗利益を生む提案に向ける
人時粗利益高を高めるには、まず商品ごとの粗利益を意識することが大切です。どの商品が利益を支えているのか。どの商品は売れているが利益が薄いのか。どの商品は説明すれば価値が伝わり、適正な価格で買っていただけるのか。売場に立つ人がそれを理解していれば、接客の質は変わります。
たとえば、目的の商品だけを渡して終わるのではなく、使い方に合う関連商品を提案する。価格だけでなく、素材、機能、長持ちする理由、手間を省く効果を伝える。お客様の困りごとを聞き、少し上位の商品や組み合わせを紹介する。こうした提案は、単価を上げるためだけではありません。お客様の満足を高めながら、粗利益を生む働き方です。
ベテランほど見直したいのは、「よく売れる商品を売っていれば安心」という考え方です。長く商売をしていると、売れる商品、動く商品、欠かせない商品が感覚でわかるようになります。それは大切な経験です。しかし、仕入原価が上がり、値引きが増え、粗利益率が変われば、以前は店を支えていた商品が、今は利益を残しにくくなっていることがあります。
反対に、販売数量は多くなくても、粗利益をしっかり生む商品があります。説明が必要で、手間もかかるけれど、お客様に価値が伝われば満足度も高い商品です。そうした商品を売場でどう見せるか、誰がどう説明するか、どの時間帯に提案するかを考えることが、人時粗利益高を高めることにつながります。
人時粗利益高を見るときは、店全体だけでなく、曜日別、時間帯別、部門別に分けることが有効です。売上は高いのに粗利益が残りにくい時間帯はないか。人員を多く配置しているのに、利益につながる提案ができていない売場はないか。少人数でも粗利益をしっかり生んでいる時間帯はないか。分けて見ることで、働き方の改善点が具体的になります。
もちろん、すべての時間を粗利益だけで判断してはいけません。品出し、清掃、発注、教育、売場づくり、常連のお客様との会話は、すぐ粗利益に表れないこともあります。しかし、それらは未来の売上と信頼をつくる仕事です。人時粗利益高は、そうした仕事を否定する数字ではなく、人の時間をどう使えば、よりよい成果につながるかを考えるための数字です。
人件費を単なるコストとして見ると、人を減らす発想になります。しかし、人件費を価値を生む投資として見ると、人の時間をどう生かすかという発想になります。人時粗利益高は、その視点を店にもたらします。
売上をつくるだけでなく、粗利益を残す。粗利益を残すだけでなく、お客様の満足と信頼を高める。1人1時間の働きを、店の持続力へ変えていく。人時粗利益高は、人の力を利益と未来につなげるための数字です。





