2026年8月18日、通信販売誌「通販生活」を発行するカタログハウスが、楽天市場への出店を取りやめました。出店したのは同年3月ですから、わずか5カ月での撤退です。
きっかけは、楽天グループがドイツの防衛企業ヘルシングと連携し、AIを搭載した攻撃型ドローン「HX-2」の日本導入を支援しているとの報道でした。楽天は国内での販売窓口となり、防衛省への導入を支援するとされています。
これに対してカタログハウスは、楽天の方針が自社の企業理念と相いれないと説明しました。「戦争が始まってしまったら、買い物どころではなくなる」という言葉とともに、楽天市場から店を引いたのです。

売上を断る決断
楽天市場は、5万店以上が出店する日本最大級のインターネット・ショッピングモールです。1億を超える楽天IDを持つ顧客に商品を届けられ、楽天ポイントを通じて新規顧客と出会えます。出店者にとって、魅力の大きい販売経路であることは間違いありません。
ましてカタログハウスは、ウェブ通販を今後の成長分野に位置づけています。その会社が自ら新しい販路を閉じました。売上への影響がまったくないはずはありません。それでも撤退したのは、売上を得る場所もまた、企業の姿勢を表すと考えたからでしょう。
カタログハウスは以前から「商品憲法」を掲げています。環境への負荷が少ない商品、長く使えて修理できる商品、できるだけ日本の雇用を増やす商品を扱うという方針です。そして第9条には「できるだけ」というエクスキューズを置きながらも、「核ミサイル、原子力潜水艦、戦闘機、戦車、大砲、銃器などを販売しない」と明記されています。
カタログハウス自身が、楽天市場で兵器を扱っていたわけではありません。しかし、出店を続けることは、防衛事業へ進出する楽天グループとの取引関係を続けることになります。それでは、非戦を訴えてきた自社の言葉と行動が一致しないと考え、売上の機会を失っても撤退を選びました。理念を単なる主張で終わらせず、行動で示した決断だったのです。

理念は「しないこと」を決める
理念は、会社案内や店内に掲げる美しい言葉ではありません。何をするかを決めると同時に、何をしないかを決める基準です。売上が順調なとき、理念を語るのは難しくありません。理念の真価が問われるのは、それを守れば売上を失う場面です。
「売れるなら扱う」「お客が来るなら出店する」「利益になるなら取引する」。それだけを判断基準にすれば、商売はどこまでも広げられます。しかし、何でも売り、誰とでも組み、どこででも売る会社は、やがて自分が何者なのかを見失います。
商売には、断る力が必要です。この商品は売らない。この方法では売らない。この相手とは取引しない。たとえ目の前に売上があっても、自社のあり方に反するなら断る。その境界線が鮮明な会社ほど、お客から見た存在理由も明確になります。
ただし、今回の問題を「カタログハウスが正しく、楽天が間違っている」と単純化してはなりません。楽天には、防衛力を高めることが侵略の抑止となり、国民の安全と平和を守るという考えがあります。カタログハウスには、武器や軍事産業から距離を置くことが平和につながるという考えがあります。
両社が目指す「平和」という目的は同じでも、そこへ至る道が異なるのです。だからこそ、それぞれが自らの理念を明らかにし、判断の結果を引き受けなければなりません。

失った売上は信頼に変わるか
理念は売上より重い――私がもっとも伝えたいことです。しかし、売上を軽視してよいという意味ではありません。売上がなければ、社員に給料を払えません。取引先への支払いも、商品の改良も、お客へのサービスも続けられません。理念を実現し続けるためにも、利益は欠かせないのです。
だから経営者には、理念を守るために売上を手放した後、別の売上をつくる責任があります。楽天市場から撤退するなら、自社サイトにお客を呼び、そこでよりよい買い物体験を提供する。新しい顧客との接点をつくり、失った売上を補う。そこまで行って初めて、理念に基づく決断は持続可能な経営になります。
一方で、今回の撤退によって守られるものもあります。それは、長年積み重ねてきた「信用」であり、そこから生まれる「信頼」です。信用とは、約束を守ってきた実績や、言葉どおりに行動してきた事実に対する評価です。
これに対して信頼とは、その信用を土台に、「この会社なら、これからも大切なことを曲げないだろう」と未来の行動に期待する気持ちです。つまり、信用は過去の積み重ねによって得られ、信頼は未来に向けて寄せられるものです。
もしカタログハウスが何事もなかったように楽天市場への出店を続けていたら、「これまで語ってきた非戦の主張は何だったのか」と疑問を持つ読者もいたでしょう。目先の売上は守れても、これまで築いた信用を損ない、その先にある信頼まで失う可能性がありました。今回、掲げてきた理念に沿って行動したことで信用を守り、「これからもこの会社は言葉を裏切らない」という信頼を深めたのです。
さて、経営者は自社に問いかけてみてください。自社は何を売らないのでしょうか。どのような方法では売らないのでしょうか。誰とは組まないのでしょうか。そして、売上が上がるとわかっていても断るものは何でしょうか。
その問いに答えられない理念は、まだ標語にすぎません。理念とは、売上を捨てるためのものではありません。どの売上を求め、どの売上を断るかを決めるものです。目の前の数字より、これからも信じてもらえる会社であることを選ぶ。その覚悟があって初めて、理念は商売を支える力になるのです。







