笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

思いどおりにならないから面白い

白い羽根が風に乗って空を舞っています。上へ行ったかと思えば下へ落ち、建物の間を抜け、車のそばをかすめながら、やがて一人の男の足元にたどり着きます。その男の名はフォレスト・ガンプ。

 

ベンチに座った彼は、隣り合わせた見知らぬ人に自分の人生を語り始めます。子どもの頃のいじめ、母との暮らし、大学でのアメリカンフットボール、ベトナム戦争、卓球選手としての活躍、エビ漁、そして生涯忘れることのできない女性ジェニーとの出会い。

 

どれも最初から計画されたものではありません。偶然に出会い、思いがけず別れ、目の前に現れたことに懸命に向き合う。その繰り返しが、いつの間にか一つの人生になっています。

 

映画「フォレスト・ガンプ/一期一会」は、知的能力にハンディキャップを持つ一人の男が、激動するアメリカ現代史を駆け抜けていく物語です。フォレストには大きな野心がありません。成功者になろうとも、有名になろうとも考えていません。ただ言われたことをきちんとやり、大切な人との約束を守り、目の前の相手を信じて生きていきます。ところが、そのまっすぐな生き方が思いもよらない出会いを呼び、次の人生を開いていきます。

 

人生は思いどおりになりません。だからといって悪い人生になるとは限りません。むしろ計画の外側にある出来事や人との巡り合わせによって、想像もしなかった道が開けることがあります。人生に必要なのは、すべてを予測する力ではありません。起きたことを受け入れ、そのとき目の前にあることに誠実である力です。

 

 

人生は計画どおりには進まない

 

フォレストの人生には「これを成し遂げる」という壮大な計画がありません。大学へ行ったのも、軍隊に入ったのも、卓球を始めたのも、エビ漁を始めたのも、人生設計に沿って選んだ道ではありません。それでも一つ一つの出来事に向き合った結果、次の扉が開いていきます。

 

私たちは人生に計画を立てます。何歳までに何をする。仕事では何年後にこの売上を目指す。店をこうしたい。会社をこうしたい。計画を持つことは大切です。しかし、計画どおりにならないことのほうが多いのも人生です。景気が変わる。取引先がなくなる。病気になる。思わぬ人と出会う。予定していた仕事がなくなる。逆に、考えてもいなかった話が舞い込むこともあります。

 

そのたびに「計画が狂った」と嘆いていたら、人生は失敗の連続になってしまいます。大切なのは、計画どおりに進むことではありません。予定外の出来事が起きたとき、それをどう受け止めるかです。

 

フォレストは「なぜ自分にこんなことが起きるのか」と立ち止まり続けません。走れと言われれば走る。卓球をやれと言われれば打ち続ける。友人との約束があれば守る。できることを、ただやります。人生では、起きる出来事を選べないことがあります。

 

しかし、その出来事にどう向き合うかは選べます。思いどおりにならないときこそ「なぜこうなった」と過去を責めるより、「では、ここから何ができるだろう」と問う。その問いが、次の道をつくります。

 

 

誠実さは遠回りに見えていちばん強い

 

フォレストの大きな魅力は、裏表がないことです。人によって態度を変えません。損得を計算して付き合うこともありません。約束したことは守り、大切な人には何度でも手を差し伸べます。ベトナム戦争では危険な状況の中で仲間を助けます。戦友バッバと交わしたエビ漁の約束も忘れません。バッバが亡くなった後も、その約束を守って事業を始めます。

 

そこには「これをすれば得をする」という計算はありません。ただ、約束したから守る。それだけです。

 

ところが、その愚直なまでの誠実さが、結果として大きな成功につながっていきます。商売でも同じです。誠実さは、すぐ売上になるとは限りません。約束した時間を守る。間違いがあれば謝る。売るべきでない商品なら「今回は買わないほうがいい」と伝える。困っているお客様がいれば、自店の利益にならなくてもできることをする。短期的に見れば、損をすることもあるでしょう。

 

しかし、お客様は見ています。「この店は信用できる」「この人なら相談できる」「困ったときはここへ行こう」。その信用は広告では買えません。何年もかけて積み重ねるものです。もちろん、商売には効率を求めることが必要です。しかし、人との関係まで効率だけで考えるようになると、大切なものを失います。誠実さとは、得をするための技術ではありません。それでも結果として、いちばん長く残る信用をつくります。

 

 

純粋だからこそ見えるものがある

 

フォレストは、人を肩書や評判で判断しません。相手が有名人だから近づくこともなければ、社会的な立場が低いから遠ざけることもありません。目の前にいる一人の人として接します。だからこそ、人の本質に近づけるのでしょう。

 

私たちは賢くなるほど先を読みます。「この人と付き合えば得になる」「これは失敗しそうだ」「どうせ無理だ」「前にも似た例があった」。経験は失敗を減らしてくれます。しかし、ときには経験が可能性まで消してしまいます。

 

フォレストには、その計算がありません。言われたことをやってみる。信じた人を信じる。好きな人を好きでいる。走りたいから走る。そこから思いもよらない出来事が生まれます。

 

仕事でも「そんなことをして何になるのか」と考えすぎると、最初の一歩が出なくなることがあります。新しい商品を試す。お客様一人の声に応える。面白そうな人に会いに行く。経験のない仕事を引き受ける。結果がわからないから、やらない。それでは、予想できる人生しか生まれません。

 

もちろん、何でも無計画にやればいいわけではありません。ただ、すべてを損得で判断しないことです。心が動いたなら、一度動いてみる。その純粋な好奇心が、人生を思いがけない場所へ連れていくことがあります。奇跡とは、突然空から降ってくるものではありません。目の前のことを素直に受け入れ、一歩を重ねた先で出会うものなのかもしれません。

 

 

出会いは人生の方向を変える

 

邦題には「一期一会」という言葉が添えられています。この言葉ほど、フォレストの人生を表すものはありません。母親、ジェニー、バッバ、ダン中尉。誰か一人が欠けても、フォレストの人生は違うものになっていたでしょう。

 

とりわけジェニーとの関係は、思うようには進みません。子どもの頃から大切に思い続けながら、出会っては離れ、また出会います。フォレストが望むからといって、ジェニーがそこにいてくれるわけではありません。人との縁とは、そういうものです。

 

会いたい人といつまでも会えるとは限りません。一緒に働いている人も、いつか別の道へ進むかもしれません。毎日のように来店してくれるお客様も、ある日来られなくなることがあります。だからこそ、今日の出会いを粗末にしないことです。

 

商売では、お客様を「一日百人のうちの一人」と数えることがあります。しかし、そのお客様から見れば、その日の買い物は一回しかないかもしれません。何気なく交わした一言を、相手は長く覚えているかもしれません。店員にとっては毎日の接客でも、お客様にとっては一期一会です。

 

職場も同じです。今日、一緒に働けることが当たり前とは限りません。だから、伝えられる感謝は今日伝える。助けてもらったら礼を言う。話を聞けるときに聞く。縁は、数えるものではありません。大切にするものです。

 

人生を変える人との出会いには「人生を変える出会いです」という札が付いているわけではありません。後になって振り返ったとき、あの人との出会いが自分を変えたのだと気づきます。だからこそ目の前の一人を大切にする。その積み重ねが、自分では設計できない人生をつくっていきます。

 

 

吹いてきた風を受け入れてみる

 

映画の冒頭を舞う白い羽根は、風に逆らいません。自分がどこへ行くのかも知りません。風に運ばれながら、最後にはフォレストのもとへたどり着きます。人生も似ています。

 

すべてを自分で決められるわけではありません。努力しても叶わないことがあります。望んでいなかった変化が起きることもあります。一方で、偶然の出会いが人生を大きく変えることもあります。ならば、すべてを思いどおりにしようと力むより、吹いてきた風を一度受け止めてみることです。

 

予定していなかった仕事の依頼が来た。知らない人から声をかけられた。思わぬ場所へ行くことになった。計画していたことがうまくいかなかった。そんなとき、すぐに「予定外だから」と閉じてしまわず、「ここには何があるだろう」と一歩踏み出してみる。それが、新しい人生の入口になるかもしれません。

 

フォレストの人生に特別な魔法があったわけではありません。目の前のことに一生懸命だった。人との約束を守った。大切な人を大切にした。そして、起きたことを受け入れながら前へ進んだ。その結果として、思いがけない景色に何度も出会いました。

 

人生には、自分で決める部分と、巡り合わせに委ねるしかない部分があります。全部を支配しようとしなくていいのです。今日できることを丁寧にする。目の前の人に誠実でいる。そして、思いがけない出来事が起きたら、それを新しい可能性として受け止めてみる。

 

人生の価値は、計画どおりに進んだかどうかでは決まりません。どんな巡り合わせに出会い、その一つ一つをどう生きたかで決まります。

 

さて今日、偶然隣り合わせた人を、ただの通りすがりで終わらせていないでしょうか。その出会いが、人生を変える一期一会になるかもしれません。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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