笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

違うからこそ強くなれる

土埃の舞うグラウンドを、選手たちが必死に走っています。倒れそうになっても走る。声を掛け合い、歯を食いしばり、また走る。そこにいるのは、育った環境も、言葉も、民族も異なる若者たちです。

 

最初から心が一つだったわけではありません。それでも、同じユニフォームを着て、同じ白球を追い、同じ場所を目指して走り続けるうちに、彼らの間にあった「違い」は少しずつ別の意味を持ちはじめます。映画「KANO1931海の向こうの甲子園」は、1931年、日本統治下の台湾から甲子園に出場し、準優勝を果たした嘉義農林学校、通称「嘉農」の野球部を描いた作品です。

 

日本人、漢人、台湾先住民族という異なる背景を持つ選手たちが一つのチームとなり、弱小だった野球部が甲子園の決勝まで勝ち進んでいきます。この映画を観ていて、私は野球の物語以上に、「人は何によって一つになれるのか」という問いを突きつけられたように感じました。

 

人を一つにするのは、同じであることではありません。同じところを目指すことなのです。

 

 

違いが問題なのではない

 

私たちは、自分と違う人に出会うと、つい戸惑います。「どうして、そんな考え方をするのだろう」「言っても、なかなか伝わらない」「若い人は昔と違う」「ベテランは考え方が固い」など、職場でも店でもこうした声をよく聞きます。

 

しかし、本当に問題なのは「違い」なのでしょうか。嘉農の選手たちも違っていました。生まれ育った環境が違う。文化が違う。得意なことも違う。それでもチームとして強くなっていきました。

 

むしろ、違っていたからこそ強くなれたのではないでしょうか。足の速い者がいる。力強く打てる者がいる。守備で力を発揮する者がいる。粘り強い者がいれば、思い切りのよい者もいる。誰もが同じ能力を持っていたら、チームは成り立ちません。

 

これは商売でもまったく同じです。話すことは得意ではなくても、誰より丁寧に仕事をする人がいます。慎重で決断は遅くても、失敗を事前に見つけられる人がいます。新しい発想を次々と出す若者がいれば、長年の経験から「これは危ない」と察知できるベテランもいます。

 

ところが私たちは、自分と違う部分ばかりを見てしまいます。「もっと積極的だったら」「もっと慎重だったら」「もっと愛想がよければ」「もっと自分から考えてくれれば」と、人を自分の理想の型にはめようとします。

 

けれども、すべての能力を持った人などいません。人には誰にでも凸凹があります。そして組織とは本来、その凸凹を組み合わせるためにあるものです。違いは、比べれば欠点になります。組み合わせれば強みになります。問題は人が違うことではありません。その違いを生かす目的が見えていないことなのです。

 

 

人を一つにするのは「何のために」か

 

嘉農の選手たちを結びつけたのは、民族でも、生まれでもありません。「甲子園へ行く。そして勝つ」という同じ目的でした。ここに、組織を強くする大切なヒントがあります。

 

目的が曖昧になると、人は違いを気にしはじめます。「あの人は仕事が遅い」「営業は現場をわかっていない」「本部は店の事情を知らない」「若手には責任感がない」「上司はこちらの気持ちをわかってくれない」と、気がつけば、仲間であるはずの人がいつの間にか批判の対象になっています。ところが、目の前に「どうしても実現したい目的」が現れると、見方が変わります。

 

たとえば、お客様から急ぎの注文をいただいたとします。何としても約束した時間に間に合わせたい。その瞬間、営業も製造も配送も、「自分の部署の都合」を言っている場合ではなくなります。「どうすれば間に合うか」という一点で力を合わせます。すると、それまで気になっていた役割や立場の違いが、むしろ必要なものに変わっていきます。

 

商店でも同じです。「売上を上げよう」だけでは、人はなかなか一つになりません。しかし、「この店に来たお客様を笑顔で帰そう」「この商品なら、うちの店に任せてほしいと言える店になろう」「この地域から、この店をなくしてはいけないと思ってもらえる存在になろう」と、目的が具体的になればなるほど、自分の仕事と仲間の仕事がつながって見えてきます。

 

掃除をする意味が変わります。電話を取る意味が変わります。商品の並べ方が変わります。一言のあいさつが変わります。目的とは、額に入れて掲げる言葉ではありません。一人ひとりが「だから私は今日これをする」と言えるところまで降りてきて、初めて力を持つものです。

 

あなたの店では、何のために働いているのかを、働く人みんなが同じ言葉で語れるでしょうか。もし答えがばらばらなら、人間関係を改善する前に、まず目的を確かめる必要があるのかもしれません。

 

 

リーダーは人を揃えるのではなく力をつなぐ

 

映画の中で印象に残るのは、永瀬正敏さんの演じる近藤兵太郎監督が選手たちに厳しい練習を課しながら、一人ひとりの可能性を見つめていることです。リーダーの役割とは何でしょう。指示を出すこと。間違いを直すこと。目標を管理すること。もちろん、それも必要です。

 

しかし、もっと大切な仕事があります。その人自身も気づいていない力を見つけ、その力がチームの目的にどう役立つのかを伝えることです。人は「ここが足りない」と言われ続けると、小さくなります。反対に、「あなたのこの力が必要だ」「ここはあなたに任せたい」「あなたがいるから、このチームは助かっている」と言われると、自分の役割を見つけます。人は役割を与えられたときより、自分が必要とされていると実感したときに動くのです。

 

以前、ある店主から「若い社員と考え方が合わない」という相談を受けたことがあります。聞けば、その若手社員は店主の指示には従いますが、自分から提案することは少ないといいます。ところが話を深く聞いてみると、その社員はSNSが得意で、地域の若いお客様が何に興味を持つかをよく知っていました。

 

そこで私は、「店主と同じ商売人にしようとしなくてもいいのではありませんか」と申し上げました。店主には何十年もの経験があります。その社員には、店主には見えない世界が見えています。どちらが正しいかではありません。二つの視点をどう組み合わせるかです。「この店をもっと若い人にも知ってもらいたい。君の感覚を貸してほしい」と言えた瞬間から、違いは対立ではなく戦力になります。

 

リーダーが「私と同じように考えなさい」と言えば、組織から違いが消えていきます。しかし、違いが消えるということは、組織から可能性も消えるということです。強いリーダーは、人を同じ色に染めません。一人ひとりの色を生かしながら、一枚の絵にしていきます。

 

 

あの人の「違い」を今日から見直してみる

 

嘉農の選手たちは、違いをなくして一つになったのではありません。違ったまま、一つになりました。私は、そこにこの物語の一番大きな意味があると思います。

 

今、あなたの職場に「合わない」と思っている人はいないでしょうか。仕事の進め方が違う。考え方が違う。性格が違う。世代が違う。その人を変えようとする前に、一度だけ問いを変えてみてください。「この人の違いは私たちの目的のために、どんな力になるだろう」と。

 

問いが変われば、見えるものが変わります。「細かすぎる」と思っていた人が、品質を守ってくれていたことに気づくかもしれません。「慎重すぎる」と思っていた人が、危険を防いでくれていたのかもしれません。「経験が浅い」と思っていた若者が、お客様の新しい変化を誰より早く感じ取っているかもしれません。

 

違いは、放っておけば壁になります。しかし、一つの目的を共有すれば、違いは役割になります。そして役割がつながれば、個人では生み出せなかった力が生まれます。

 

明日、朝礼で難しい話をする必要はありません。一つだけ、仲間に問いかけてみてはいかがでしょう。「私たちは、何のためにこの仕事をしているのだろう」。そしてもう一つ、「そのために、一人ひとりの違いをどう生かそうか」。組織を変えるのは、大きな制度とは限りません。同じ目的を確かめる、一つの問いから始まります。

 

人は、同じだから力を合わせるのではありません。同じところへ行きたいと思ったとき、違う人どうしでも力を合わせられるのです。嘉農の選手たちが同じ白球を追ったように、あなたの店にも、みんなで追いかける「白球」はあるでしょうか。それをもう一度、言葉にしてみてください。

 

違いをなくそうとするのではなく、違いを生かす。そこから、あなたの店の本当のチームづくりが始まります。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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