笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

弱みを直すより強みで勝つ

閉店後の売場に、店主がひとり立っています。今日もよく働きました。朝から仕入れをし、売場を整え、接客をし、電話にも出て、帳簿も見ました。それでも数字は思うように伸びません。ふと周りを見れば、大型店は品揃えが豊富です。ネットは価格が安い。駅前の店は立地がいい。若い人を採用できる店もあります。

 

その瞬間、自分の店に足りないものばかりが見えてきます。もっと商品があれば、もっと資金があれば、もっと人手があれば、もっと場所がよければ、もっと宣伝できれば、足りないものばかりが思い起こされます。けれども、足りないものを数えはじめた商いは、いつの間にか力を失っていきます。

 

ドラッカーは『プロフェッショナルの条件』所収の「自らをマネジメントする」の中で、「人は強みによって成果を上げる。弱みによって成果を上げることはできない」と説いています。この言葉は、人だけでなく店にもそのまま当てはまります。

 

店は弱みを直すだけでは強くなりません。成果を上げる店は、自店の強みを見つけ、それをお客様の価値に変えています。

 

 

弱みを埋めても選ばれる理由にはならない

 

商いをしていると、弱みはどうしても目につきます。品揃えが少ない。駐車場がない。人手が足りない。営業時間を延ばせない。価格では勝てない。新しい設備も入れられない。競合店と比べれば、足りないところはいくらでもあります。

 

もちろん、放っておいてよい弱みばかりではありません。清潔でない売場、不親切な接客、欠品の多さ、約束を守れない仕事は直さなければなりません。お客様に迷惑をかける弱みは改善が必要です。

 

けれども、弱みをすべて消そうとすると、店は疲れてしまいます。大きな店と同じ品揃えを目指す。安い店と同じ価格を目指す。便利な店と同じサービスを目指す。そうしているうちに、自店らしさが薄れていきます。

 

弱みを埋める努力は、せいぜい平均点に近づく努力です。しかも、どれだけ弱みを埋めても平均を超えることはありません。さらには、お客様が心を動かされるのは、平均点の店ではありません。「この店だから」と思える理由がある店です。

 

小さな店に必要なのは、何でもできることではありません。「これなら任せてほしい」と言えることです。その一点が見えたとき、店は価格ではなく意味で選ばれはじめます。

 

 

強みは店主の背中に宿っている

 

では、強みとは何でしょうか。特別な技術や珍しい商品だけが強みではありません。むしろ強みは、店主や従業員が当たり前だと思って続けてきた日々の中に隠れています。

 

お客様の顔と好みをおぼえていること。使い方を最後まで説明できること。失敗しない選び方を伝えられること。地域の暮らしを知っていること。急な相談にも親身に応えられること。商品を売った後も気にかけること。これらは大きな会社にはまねしにくい強みです。

 

店主にとっては普通のことかもしれません。しかしお客様にとっては、そこに安心があります。迷ったときに聞ける人がいる。自分のことをわかってくれる人がいる。売りっぱなしにしない人がいる。それは立派な価値です。

 

強みは派手である必要はありません。長く続けてきたことの中にあります。お客様から何度も言われる言葉の中にあります。「助かった」「ここで聞いてよかった」「あなたに頼んでよかった」。その一言こそ、自店の強みを教えてくれる声です。

 

自分では強みと思っていないことが、お客様にとっての選ぶ理由になっていることがあります。だから店主は、足りないものを嘆く前に、すでに持っているものを見直す必要があります。幸せの青い鳥はじつは身近にいるのです。

 

 

強みをお客様の価値に変える

 

ただし、強みは持っているだけでは成果になりません。お客様に伝わってこそ価値は生まれます。誰も人のいない森の中で樹が倒れたとします。そのとき音はしたでしょうか。誰も聞いていなければ音がないのと一緒です。さらには、役立ち、喜ばれて初めて価値になります。

 

「専門知識がある」は店側の言葉です。お客様にとっては「失敗しない買い物ができる」という価値になります。「品揃えにこだわっている」は店側の言葉です。お客様にとっては「迷わず自分に合うものを選べる」という価値になります。「長く商売をしている」は店側の言葉です。お客様にとっては「安心して任せられる」という価値になります。

 

強みは、お客様の言葉に翻訳しなければ伝わりません。POPも接客もSNSも、その翻訳のためにあります。商品の特徴を並べるだけではなく、それがお客様の暮らしをどうよくするのかを伝えるのです。

 

価格で勝てないなら、納得で勝つことです。品揃えで勝てないなら、選び方で勝つことです。立地で勝てないなら、会いに行く理由で勝つことです。人手で勝てないなら、手をかけるところを絞り込むことです。

 

弱みを嘆く店は、自分にないものばかりを見ています。強みで勝つ店は、お客様にできることを見ています。この違いが商いの未来を分けます。店は、誰かのまねをしなくてもよいのです。大きな店になれなくてもよいのです。安さで一番になれなくてもよいのです。自分の店にしかできない役立ち方を磨けばよいのです。

 

ドラッカーの言葉は、静かに背中を押してくれます。人は強みによって成果を上げる。弱みによって成果を上げることはできない。商いも同じです。店は、足りないものではなく、すでに持っている力によって前へ進むことができます。

 

今日、店を見渡してみてください。そこには、長く続けてきた仕事があります。信じて仕入れてきた商品があります。お客様との会話があります。何気ない心配りがあります。それらは決して小さなものではありません。磨けば、店を支える強みになります。

 

弱みを直すことに追われるより、強みを見つけましょう。強みを磨きましょう。そして、その強みをお客様の価値に変えていきましょう。そこに、価格だけでは比べられない商いがあります。そこに、もう一度選ばれる店の未来があります。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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