笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

朝、店のシャッターを開ける前から、店主の頭の中には問題が並んでいます。昨日の売上が低かった。人手が足りない。仕入れ値がまた上がった。常連客の来店間隔が空いている。競合店が値下げを始めた--。考えれば考えるほど、今日一日が始まる前から心が重くなっていきます。

 

もちろん、問題から目をそらすことはできません。商いは現実の連続です。資金繰りも、人材も、価格も、在庫も、日々の経営に直結します。けれども、問題を一つずつ消していくことだけが経営だと思い込むと、店は少しずつ守りの姿勢になります。火消しに追われ、修理に追われ、目の前の不安を小さくすることに力を使い果たしてしまいます。

 

ドラッカーは『創造する経営者』の中で、成果は問題の解決ではなく、機会の開拓から生まれると説きました。これは、商人にとって厳しくも希望のある言葉です。

 

問題を解決しても、多くの場合、元に戻るだけです。赤字を止める。欠品をなくす。クレームを処理する。それは必要な仕事ですが、それだけでは店は伸びません。店を前に進める力は、問題の奥に隠れた機会を見つけるところから生まれます。

 

 

問題処理だけでは店は強くなれない

 

店の現場では、問題があるとすぐ対策を考えます。客数が減ったからチラシを打つ。売れないから値下げする。人手が足りないから求人を出す。在庫が多いから処分する。どれも必要な対応です。しかし、それが「目の前の症状を抑えるだけ」になっていないかを見直す必要があります。

 

たとえば、客数が減ったときに「どう人を呼ぶか」だけを考えると、値引きや販促に頼りがちです。しかし本当に問うべきことは、「なぜ、今のお客様はこの店に来る理由を感じにくくなったのか」かもしれません。来店動機が弱くなっているのなら、解決すべきは集客手段ではなく、店の価値の伝え方です。

 

人手不足も同じです。求人広告を増やすだけでは、根本は変わりません。働く人がここで成長できるか。お客様に喜ばれる実感を持てるか。無理やムダの多い仕事を見直しているか。そう考えると、人手不足という問題の中に、働き方を磨き、店の魅力を高める機会が見えてきます。

 

問題処理は、店を守るために必要です。しかし、守るだけでは未来は開けません。商いに必要なのは、問題を消す目だけでなく、問題の中に次の可能性を見る目なのです。

 

 

変化の中に客の新しい不便がある

 

物価高、人口減少、高齢化、ネット購買の拡大。これらを並べると、商売には逆風ばかりが吹いているように感じます。けれども、変化はいつも問題だけを連れてくるわけではありません。変化は同時に、新しい不便、新しい不安、新しい願いを生み出します。

 

高齢化は客数減の問題に見えます。しかし、少量で買いたい、重いものを運びにくい、選ぶのに時間がかかる、健康に配慮したいという新しい需要でもあります。物価高は買い控えの問題に見えます。しかし、失敗したくない、長く使えるものを選びたい、納得して買いたいという価値提案の機会でもあります。

 

共働き世帯の増加は、時間不足という不便を生みます。そこには、調理の手間を減らす商品、短時間で選べる売場、迷わず贈れる提案、予約や取り置きの仕組みが求められます。観光客やインバウンドの増加は、言葉や文化の違いという壁を生みますが、地域ならではの商品をわかりやすく伝える機会にもなります。

 

機会は、遠くにある特別なものではありません。お客様の「困った」「面倒だ」「よくわからない」「失敗したくない」という小さな声の中にあります。その声を拾える店は、価格だけで比べられにくくなります。なぜなら、その店は商品を売るだけでなく、お客様の不便を解決し、暮らしを少しよくする存在になるからです。

 

 

機会を見る店に生まれる行動力

 

機会を見つけるとは、夢のような新事業を考えることではありません。今日の売場を、お客様の変化に合わせて少し変えることです。売れていない商品をただ嘆くのではなく、誰にどう伝えれば価値が届くかを考える。人手不足をただ苦しむのではなく、作業を減らし、接客の質を上げるきっかけにする。値上げを怖がるだけでなく、価値を説明し、粗利益を守る商売へ転換する。

 

そのために必要なのは、問いを変えることです。「なぜ悪いのか」だけでなく、「この変化の中に、どんな新しいお客様の困りごとがあるか」と問いましょう。「どう元に戻すか」だけでなく、「これを機に、どんな店へ進化できるか」と問う。問いが変わると、現場の見え方が変わります。

 

昨日まで問題にしか見えなかったことが、店を磨く入口になります。高齢化は、やさしい売場づくりの機会になります。物価高は、価値を語る接客を鍛える機会になります。人手不足は、働きやすい仕組みをつくる機会になります。客数減は、来店客一人ひとりとの関係を深める機会になります。

 

商いは、問題を抱えない店が勝つのではありません。問題の中から機会を見つけ、行動に変えた店が前へ進みます。ドラッカーの言葉は、私たちにそう教えてくれます。成果は問題の解決ではなく、機会の開拓から生まれる。だから今日、店に立つとき、問題の数を数えるだけで終わらせてはなりません。

 

その問題の向こうに、どんなお客様の願いが隠れているか。どんな不便が生まれているか。どんな価値を届ければ、もう一度選ばれる店になれるか。そう問い直した瞬間、苦境はただの苦境ではなくなります。次の商いをつくる入口になります。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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