◆今日のお悩み
世間からも社員からも賃上げを求められていますが、先行きが見通せず、決断できません。どうすればよいでしょうか。
「人手が足りない」という言い方を、何気なく口にしたことはないでしょうか。経営者の中には、事業を支える大切な協力者である従業員を「人手」と呼び、人数や労働力としてしか見ていない人がいます。
「賃金を払っているのだから、どう呼ぼうと自分の勝手だ」と考える人もいるでしょう。しかし、人を道具のように扱う組織から、主体性や創意工夫は生まれません。人への見方は、事業の質となって表れます。
事業が永続するためには、お客様に喜びを届け、暮らしや幸せに役立とうとする「心」が欠かせません。事業とは、商品・サービスとお金を交換するだけの作業ではなく、そこに真心を添えて価値を生み出す営みだからです。
単なる「手」に、真心を込めた仕事はできません。必要なのは、心を持ち、考え、工夫する一人の人です。それでも私たちは、つい「手が欲しい」と言ってしまいます。
経営者の仕事は多岐にわたり、一人ですべてを担うことはできません。だから、自分と志を分かち合い、懸命に働く協働者を求めます。それなのに、従業員を道具のように扱い、コストとだけ見なしてはいないでしょうか。
従業員は、経営者と志を分かち合う「第二の自分」ともいうべき存在です。大切な家族のような存在であり、価値創造の担い手です。一人の人材を見いだし、育てるには、愛情と敬意が欠かせません。
従業員とともに懸命に働き、一代でウォルマートを世界有数の小売企業へと育てた商人がいます。20世紀を代表する経営者の一人、ウォルマート創業者のサム・ウォルトンです。
サムは、自らの経験から導き出した事業成功の原則を、「より良いビジネスを構築するための10のルール」にまとめました。「サムの10カ条」として知られ、いまも多くの経営者に読み継がれています。
①自分の仕事に夢中になろう
②利益をすべての従業員と共有し、彼らをパートナーとして扱おう
③パートナーのモチベーションを高めよう
④パートナーにできる限りすべてのことを伝えよう
⑤従業員がビジネスのために行うすべてのことに感謝しよう
⑥成功を祝おう
⑦社内全員の意見に耳を傾けよう
⑧顧客の期待を超えよう
⑨競合他社よりも支出をうまく管理しよう
⑩流れに逆らって泳ごう
このように10カ条の半数が従業員に関するルールです。サムは、企業の成長は従業員次第だと見抜いていました。
また、サムは「本当によく知っているのは現場の従業員だけである。もし彼らが知っていることを聞き出さなければ、いずれ会社は大変なことになる」と、現場の声に耳を傾ける大切さを語っています。
成功への道をともに歩むのは従業員です。互いを尊重する強い絆があってこそ、事業は持続します。サムの成功はその好例です。
「利益をすべての従業員と共有し、彼らをパートナーとして扱おう」
この言葉に答えがあります。賃上げは単なるコスト増ではなく、人への投資です。もちろん、無理な引き上げは続きません。経営状況を共有し、生産性を高め、そこで生まれた利益を公正に分かち合うことが王道です。
賃上げを「払うか、払わないか」だけで考えるのではなく、「どうすれば、ともに稼ぎ、ともに豊かになれるか」と問い直す。それが、従業員を真のパートナーとして扱う経営です。

#お悩みへのアドバイス
従業員とは
道具ではなく、大切な家族であり
単なる販管費やコストではなく
価値創造の担い手である
※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」のオンラインメディア「Wedge ONLINE」の連載コラム「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。これまでのコラムもお読みいただけます。







