笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

◆今日のお悩み

Z世代というのでしょうか、新入社員や異動してきた若手との関わりに、戸惑いを覚えています。丁寧に教えているつもりなのに、どこか手応えが薄いのです。叱れば萎縮し、任せれば不安そうな顔をします。やる気がないわけではないのに、こちらの熱量と噛み合いません。Z世代の部下と、どう付き合えばよいのでしょうか。

 

 

 

昼休み明けの職場に、静かな緊張が漂っています。新しく配属された若手社員は返事をし、与えられた仕事もきちんとこなします。けれども、目を輝かせて前のめりになる様子はありません。「言われたことはやる。しかし、自分からは動かない」。上司が抱くこの違和感は、いま多くの職場に広がっています。

 

しかし、その原因を「最近の若者は……」の一言で片づけてしまえば、本質を見失います。Z世代は決して仕事を軽く見ているわけではありません。むしろ、自分の人生の時間を何に使うのかについて、これまで以上に敏感な世代なのです。

 

 

Z世代が求めるのは「指示」より「意味」

 

Z世代は、景気の長期停滞や雇用環境の変化、SNSによる常時接続社会のなかで育ってきました。「会社に尽くせば、将来は保証される」という物語を、当然の前提として受け入れてはいません。だからこそ、仕事を前にしたとき、まず「これは何のためにやるのか」「誰の役に立つのか」「この仕事を通じて、自分はどう成長できるのか」と問います。

 

この姿勢は、見方を変えれば健全です。意味のわからないことに無条件で従うのではなく、自分なりに納得したうえで働こうとしているからです。ワークライフバランス、自分らしさ、心理的安全性、成長実感、共感できる理念などを重視するのも、単なるわがままではありません。不確実な社会を生き抜くために、自分を守りながら働こうとする知恵でもあります。

 

Z世代の労働観を「扱いにくさ」と見るのか、それとも「時代の変化を映す鏡」と見るのか。そこに、これからの経営の質を分ける大きな分岐点があります。

 

ここで重要になるのが、近年注目されている「人的資本経営」です。人的資本経営とは、人材を管理すべきコストではなく、企業価値を生み出す資本として捉える考え方です。従来の発想が「人をいかに使うか」に重点を置いていたのに対し、人的資本経営は「一人ひとりにどう育ち、どう力を発揮してもらうか」を問います。

 

人を管理の対象から、価値創造の主体へと捉え直す。そこに、いま起きている大きな転換があります。

 

 

理念を現場の言葉に変える会社

 

その実践例として示唆に富むのが、首都圏を中心に展開するスープ専門店「スープストックトーキョー」です。同社は「世の中の体温をあげる」という理念を掲げています。そして社員だけでなく、パート・アルバイトを含む「パートナー」にも、仕事の手順だけではなく、「なぜそれを大切にするのか」という考え方まで共有してきました。

 

さらに、理念を日々の行動へ落とし込むために、「五感」と呼ばれる五つの行動指針を掲げています。「低投資・高感度」「誠実」「作品性」「主体性」「賞賛」です。

 

第一の「低投資・高感度」は、お金をかければ価値が生まれるという発想ではありません。限られた資源のなかで、どれだけ相手の気持ちや周囲の変化に敏感でいられるかを問う言葉です。高価な設備や派手な演出がなくても、お客様の小さな変化に気づき、一歩先回りして声をかけることはできます。言葉遣いや店の空気、差し出す一杯の温度にまで心を配ることもできます。商いの価値を決めるのは、予算の多寡だけではなく、人の感度の高さなのです。

 

これはZ世代にも響く考え方です。大きな号令や抽象的な精神論よりも、「今日の仕事で何をすればよいのか」がわかる具体的な言葉のほうが、自分の行動に結びつけやすいからです。

 

第二の「誠実」は、単に真面目に働くという意味ではありません。相手に対して正直であり、自分の仕事に嘘をつかないことです。無理に売り込まない。できないことは、できないと伝える。目の前のお客様にも、一緒に働く仲間にも、取り繕うことなく向き合う姿勢です。

 

Z世代の多くは、組織の建前や空疎なスローガンに敏感です。会社が語る理念と、現場で行われていることが食い違えば、すぐに違和感を抱きます。だからこそ、誠実という価値観は、世代を超えて信頼関係を築くための土台になります。

 

 

 

人は「やらされ仕事」では育たない

 

第三の「作品性」には、スープストックトーキョーらしい仕事観が表れています。仕事を単なる作業で終わらせず、自分たちの手から生まれるものを「作品」として捉える考え方です。提供するスープも、店づくりも、接客の一言も、自分たちらしさや美意識が宿るところまで磨いていきます。

 

Z世代の多くは、自分の仕事に「自分の色」が反映されることを重視します。言われたことをこなすだけの仕事には充実感を持ちにくくても、自分の工夫や感性を生かせる仕事には強く没入します。作品性とは、仕事に誇りと手応えを宿すための言葉でもあるのです。

 

第四の「主体性」は、単に上司から言われる前に動くことではありません。理念に照らして自分の頭で考え、判断し、行動することです。指示待ちを責めるだけでは、人は主体的になれません。「何を大切にすべきか」を伝えたうえで、「自分で考えてよい」という余白を渡す必要があります。この余白がなければ、どれほど立派な理念を掲げても、現場は指示を待つだけの組織になってしまいます。

 

Z世代が主体性を求めることは、放任を望んでいるという意味ではありません。判断のよりどころが明確に示され、そのうえで自分の考えが尊重される環境を求めているのです。大切にすべき価値観と、任せる範囲。この二つがそろって、初めて主体性は育ちます。

 

第五の「賞賛」は、目立った成果を上げた人だけを褒めることではありません。誰かの工夫、努力、気配り、挑戦をきちんと見つけ、言葉にして伝える文化です。Z世代は承認欲求が強いと、ひとくくりにされることがあります。しかし、より正確にいえば、「自分の仕事を見てもらえていないこと」に敏感なのではないでしょうか。自分の働きが誰にも届いていないと感じる職場では、心は急速に離れていきます。一方、小さな努力や成長を見つけてもらえる職場では、自分の存在意義を実感し、さらに力を発揮しようとします。

 

賞賛は、甘やかしではありません。「私たちの組織は、どのような行動を価値あるものと考えているのか」を具体的に伝える、重要な経営行為なのです。

 

 

「ジブンゴト化」の仕組みが人を育てる

 

注目すべきは、スープストックトーキョーが理念を「きれいごと」で終わらせていない点です。採用段階では、スキルや経験だけでなく、理念への共感を重視します。パート・アルバイトを「パートナー」と呼ぶことにも、ともに理念を実現する仲間として向き合う姿勢が表れています。

 

育成の段階では、「世の中の体温をあげる接客とは何か」を、一人ひとりが自分の言葉で考えます。さらに、年に一度の成果発表会では、社員だけでなくパートナーも舞台に立ち、自分たちの実践を語ります。理念への共感を採用の入口に据え、日々の仕事で表現させ、発表の場で誇りへと変えていく。この一連の設計こそ、仕事を「ジブンゴト化」する仕組みです。

 

象徴的なのは、接客マニュアルで一挙手一投足を細かく縛るのではなく、「お客様の体温をあげるには、どのような一言を添えればよいか」を、それぞれに考えさせている点です。ここには、単なる標準化だけでは到達できない世界があります。

 

仕事の意味を理解し、自分の言葉に置き換え、自分の行動としてお客様に差し出す。だからこそ、理念は神棚に祭られた言葉にならず、現場の温度として生き続けます。人手不足の時代に本当に求められているのは、空いた場所を人で埋めることではありません。一人ひとりの内側から力を引き出す「意味づけの経営」です。

 

五感を改めて並べてみると、同社が求める人材像が見えてきます。限られた資源でも高い感度を持ち、誠実に人と向き合い、美意識をもって仕事を作品へと高め、自分の頭で考えて行動し、仲間の努力を認めて賞賛できる人です。

 

これは、接客技術だけの話ではありません。業種や組織の規模を問わず、価値を生み出す人材に必要な姿勢です。そして、この人材像が採用や育成だけでなく、評価や制度にまでつながっているところに、同社の強さがあります。

 

スープストックトーキョーで人材開発を担ってきた江澤身和さんは、「人事制度は“平均”ではなく“一人”の社員と向き合うものだ」と語っています。会社が求める人物像やスキルを言語化し、それを評価に落とし込むことで、「どのように働いてほしいか」と「何を評価するか」のずれを小さくしてきました。

 

これこそ、人的資本経営の本質です。立派な制度をつくること自体が目的ではありません。一人ひとりが評価に納得し、成長を実感し、自分の力を十分に発揮できる環境をつくることが目的なのです。

 

さらに同社は、「働き方開拓」として休日の拡充にも取り組み、離職率の低下や働きやすさの向上につなげてきました。理念か業績かという二者択一ではなく、理念と業績の両方を追求する。人を大切にすることを情緒的な美談で終わらせず、具体的な経営課題として扱ってきた点に、私たちが学ぶべきものがあります。

 

 

問われているのは若者論ではなく経営の覚悟

 

Z世代を活かすとは、若者に迎合することではありません。相手に合わせてルールを安易に緩めることでもありません。仕事の意味を語り、自社が何を大切にしているのかを明確にし、その価値観に沿って人を育て、評価し、一人ひとりの成長に向き合うことです。言い換えれば、上司個人の経験則や根性論に頼ってきた人材マネジメントを、経営そのものへと引き上げることです。

 

人手不足が深刻になるこれからの時代、人はますます貴重な存在になります。しかし、本当に足りないのは人数だけではありません。人が「ここで力を発揮したい」と思える組織をつくる力が足りないのです。

 

採用の巧拙だけでは、企業の将来は決まりません。入社した人が仕事の意味を見いだし、仲間との関係を築き、「ここで働き続けたい」と思える環境を育てられるかどうか。そこに、これからの企業の力を分ける決定的な差が生まれます。

 

「Z世代の部下と、どう付き合えばよいのか」。この問いを、若者対応のノウハウだけで終わらせてはなりません。人をコストではなく、未来の価値を生み出す資本として見ているでしょうか。働く意味を、組織として語れているでしょうか。そして、語った理念と日々の経営を一致させているでしょうか。

 

Z世代から問われているのは、若者の働く姿勢ではありません。人を活かす組織を本気でつくる覚悟が、経営者と管理職にあるかどうかなのです。

 

#お悩みへのアドバイス

意味なき指示では
人の心は動かない
理念が日々に宿るとき
働く力は育ちはじめる

 

※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」のオンラインメディア「Wedge ONLINE」の連載コラム「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。これまでのコラムもお読みいただけます。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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