笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

店に商品がなければ、商売はできません。お客様が欲しいときに、欲しい商品がある。選べるだけの品揃えがある。季節や用途に合わせた提案ができる。そのために在庫は必要です。

 

しかし、在庫は多ければよいというものではありません。売場や倉庫にある商品は、すべて仕入れにお金を使ったものです。まだ売れていない商品は、言い換えれば、現金になる前の状態で店の中に眠っているお金です。そこで見ておきたい数字が「在庫高」です。

 

在庫高とは、ある時点で店が持っている商品の金額を示す数字です。原価で見る場合もあれば、売価で見る場合もあります。経営判断で特に大切なのは、仕入れにいくらのお金が使われ、まだ回収されていないかを知ることです。たとえば、原価で500万円分の商品が店内や倉庫にあれば、その500万円はまだ現金として戻ってきていないお金です。

 

この数字が大切なのは、売上だけを見ていても、資金繰りの苦しさが見えないからです。売上はあるのに手元資金が足りない。忙しく売っているのに支払いが厳しい。そういうとき、原因の一つが在庫にある場合があります。売れない商品、動きの遅い商品、仕入れすぎた商品が増えると、お金は商品に姿を変えたまま店の中に滞ります。

 

在庫は、売れれば利益の源になります。しかし、売れなければ資金を圧迫します。さらに時間がたてば、商品の鮮度は落ちます。食品であれば賞味期限や品質の問題があります。衣料品であれば季節や流行が過ぎます。雑貨や日用品であっても、売場で古く見えれば魅力は下がります。在庫高が大きいということは、将来の値下げや廃棄、処分の危険も抱えているということです。

 

もちろん、在庫を減らしすぎても問題があります。必要な商品が欠品すれば、お客様は買えません。一度「この店には欲しいものがない」と思われれば、次の来店機会を失うこともあります。専門店にとって在庫は、お客様の期待に応えるための備えでもあります。大切なのは、多すぎず、少なすぎず、店の売れ方に合った在庫を持つことです。

 

在庫高を見るときは、店全体の金額だけでなく、商品別、部門別、仕入先別に分けて見る必要があります。全体の在庫高は変わっていなくても、ある部門だけ過剰になっていることがあります。売れ筋は欠品気味なのに、死に筋だけが残っていることもあります。数字を分けて見ることで、どこにお金が滞っているのかが見えてきます。

 

たとえば、季節商品を仕入れすぎた場合、シーズン初めは売場に勢いが出ます。しかし、売れ残れば終盤には値引きが必要になります。値引きして売れればまだよいのですが、それでも売れ残れば、来季まで保管するか、処分するしかありません。その間、売場も倉庫も資金も占有されます。在庫高は、仕入れの判断が適切だったかを後から教えてくれる数字です。

 

また、在庫高は売場の鮮度とも関係します。同じ商品が長く残っている売場は、お客様から見ても動きがありません。いつ行っても同じ商品がある店は、安心感がある一方で、新しい発見が少ない店にも見えます。売れる商品を切らさず、動かない商品を見直し、新しい商品を入れる余地をつくる。そうした循環が、売場に活気を生みます。

 

在庫高を適正にするには、まず記録が欠かせません。何が、いくつ、いくら分あるのか。いつ仕入れたのか。どのくらいの期間、売場に残っているのか。感覚だけで在庫を見ると、「まだ大丈夫」「そのうち売れる」と考えがちです。しかし、数字で見ると、思った以上に動いていない商品が見つかります。

 

特に専門店では、思い入れのある商品ほど在庫として残りやすいものです。これは良い商品だから売れるはずだ。自分が気に入って仕入れた商品だから残したい。そうした気持ちは商人として自然です。しかし、お客様が価値を感じ、買ってくださらなければ、商品は店の中で止まります。商品への思いを大切にしながらも、数字で現実を見る冷静さが必要です。

 

在庫高を下げるために、すぐ値引きをする必要はありません。まずは売場での見せ方を変えることです。置き場所を変える。POPで用途を伝える。関連商品と組み合わせる。接客で使い方を提案する。季節や行事に合わせて再編集する。動いていない商品でも、伝え方が変われば動き出すことがあります。

 

それでも動かない商品は、早めに判断することが大切です。売れ残ってから大幅に値引きするより、早い段階で小さく手を打つほうが、利益の傷は浅くなります。在庫管理は、商品を切り捨てることではありません。商品を生かし、売場を生かし、資金を生かすための仕事です。

 

在庫高は、仕入れの癖も映します。売れるかどうか不安で少なすぎる店。欠品を恐れて多く持ちすぎる店。仕入れ先との関係で断れずに仕入れてしまう店。前年実績だけで発注し、今年のお客様の変化を見ていない店。数字は、そうした店の習慣を静かに教えてくれます。

 

人口減少が進み、売れる量が自然に増えにくい時代です。だからこそ、在庫をたくさん持つことで安心するのではなく、必要な商品を、必要な量だけ、必要なタイミングで持つ力が問われます。在庫高を見ることは、店のお金の流れを見つめることです。そして、売場にある商品一つひとつが、次の利益に変わる可能性を持っているかを確かめることです。

 

在庫高は、売場に眠るお金を映す数字です。商品を持つことの安心と、持ちすぎることの重さを見極め、売場と資金を健全に循環させることが、これからの専門店に欠かせない経営の力になります。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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