笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「以前はこのやり方で売れたのに、なぜ今は通用しないのか」と、閉店後の店内で、店主が売上表を見つめて独り言ちています。客数は減り、値上げには不安があり、人も採れません。そこで会議を開いても、「もっと声を出そう」「品揃えを増やそう」「昔のお客様を呼び戻そう」と、これまで何度も聞いた答えが並びます。

 

しかし、業績が変わらないのは、努力が足りないからとは限りません。そもそも、立てている問いが古くなっているのかもしれません。ネイティブアメリカンの教えとして、次の言葉が広く伝えられています。

 

「問いを持った部族は生き残ったが、答えを持った部族は滅びた」

 

この言葉は特定の部族や原典を確認できず、古くから伝わる確定した格言と断定することはできません。それでも、変化への向き合い方を考える言葉として、大きな示唆があります。答えを持つことが悪いのではありません。問題は、一度得た答えをいつまでも正しいと思い込み、現実が変わっても問い直さなくなることです。

 

 

昨日の正解が今日の思考を止める

 

商売には成功体験が必要です。よく売れた商品、反応のよかった販促、信頼されてきた接客方法。それらは店にとって大切な財産です。しかし、成功体験は使い方を誤ると、変化を見えなくする壁にもなります。

 

「うちのお客様は安さを求めている」「若い人は商店街に来ない」「この地域では新しいことは受け入れられない」といった言葉は、一見すると現場をよく知る人の答えに聞こえます。しかし実際には、考えることを止めるための説明になっていることがあります。

 

たとえば、「客数が減った。どうすれば増やせるか」と問えば、広告、割引、イベント、SNSなどの答えが出てきます。けれども、問いを少し変えてみたらどうでしょう。

 

「お客様は、なぜわざわざこの店に来るのか」
「来なくなった人は、何に困っているのか」
「いまの店は、誰にとって必要な存在なのか」

 

問いが変われば、見るべき現実も変わります。客数減少の原因は、知名度の低さではなく、店の価値が伝わっていないことかもしれません。品揃えが足りないのではなく、何を選べばよいか相談できる安心感が不足しているのかもしれません。営業時間、支払い方法、商品の量目など、店側が当たり前だと思っていることが、お客様には不便になっている可能性もあります。

 

答えは行動を速くします。しかし、問いは行動の方向を正します。間違った方向へ懸命に走るより、一度立ち止まって問い直すほうが、結果として早く前へ進めることがあります。

 

 

良い問いは現場から生まれる

 

良い問いは、社長室や会議室だけでは生まれません。お客様の表情、従業員の戸惑い、売場で立ち止まる場所、電話で繰り返される質問、返品の理由、商品を手に取ったのに買わずに帰った人の動き。現場にある小さな違和感が経営を変える問いの種になります。

 

朝礼で社長が答えを話し続ければ、社員は「社長の正解を当てる人」になります。反対に、次のように尋ねてみてください。

 

「昨日、お客様から何を聞かれましたか」
「売れなかった商品には、どんな共通点がありましたか」
「仕事をしにくくしている無駄は何ですか」

 

こうした問いを日常的に投げかければ、社員は現場を観察するようになります。問いを持つ組織とは、社長だけが考える組織ではありません。一人ひとりが現実を見て、感じたことを言葉にできる組織です。

 

大切なのは、出てきた意見にすぐ結論を下さないことです。「それは無理だ」「前にもやった」「うちのお客様には合わない」と切り捨てれば、問いはそこで消えてしまいます。まずは、「なぜそう感じたのですか」「どのお客様を見てそう思いましたか」「小さく試すなら何ができますか」と、問いを重ねてください。問いは相手を追い詰めるためではなく、現実を一緒に深く見るために使うものです。

 

会議では、一つの答えを決める前に、最低でも三つの問いを出す方法が有効です。「本当の問題は何か」「別の見方はないか」「お客様の立場ではどう見えるか」。これだけでも、思い込みによる判断は減っていきます。

 

 

今日から持つべき三つの問い

 

問いを経営に生かすために、難しい仕組みは必要ありません。まず、毎日の仕事の終わりに、三つだけ問いかけてみてください。

 

一つ目は「今日、お客様の変化を何から感じたか」です。売上数字だけでなく、会話、表情、選び方、滞在時間の変化を見ます。

 

二つ目は「今日の仕事で、当たり前だと思い込んでいたことは何か」です。長年続けている手順や習慣ほど、問い直す価値があります。

 

三つ目は「明日、小さく試せることは何か」です。問いは考えるだけで終わらせず、行動につなげて初めて力を持ちます。

 

たとえば、値上げに悩んでいるなら、「いくら上げるか」だけを考えるのではありません。「お客様が価格以上に感じている価値は何か」「その価値を十分に伝えているか」「値上げ後も選ばれるために何を加えられるか」と問います。

 

人手不足なら、「どう採用するか」だけでなく、「辞めたくなる仕事は何か」「今いる人が力を発揮できない原因は何か」「やめてもよい仕事はないか」と問い直します。

 

売上不振なら、「何を売るか」だけでなく、「誰のどんな困り事を解決する店なのか」と尋ねます。同じ問題でも、問いが変われば、打ち手は大きく変わります。

 

AIは、これからますます多くの答えを示してくれるでしょう。しかし、何を尋ねるか、どの問題を選ぶか、誰のために考えるかは、人間の仕事として残ります。むしろ答えが簡単に手に入る時代ほど、経営者の価値は、良い問いを立てることに移っていきます。

 

過去の答えは、昨日までの店を支えてくれました。けれども、明日の店をつくるのは、今日の問いです。いまのやり方をすべて否定する必要はありません。ただ一度、こう問いかけてみてください。

 

「この答えは、いまも本当に正しいだろうか」

 

その一問が商売を次の時代へ進める最初の一歩になります。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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