閉店時刻が近づいた店内で、惣菜売場の照明だけが少し寂しく見えることがあります。夕方にはあれほどにぎわっていた平台に、唐揚げ、煮物、弁当、サラダがぽつりぽつりと残っています。店員が値引きシールを貼ると、お客様がすっと近づいてきます。半額になれば売れるのです。
けれども、その一方で、店の利益は静かに削られていきます。売れ残った商品は、最後に値引きされるだけではありません。売れなければ廃棄されます。仕入れたお金、調理した手間、運んだ時間、売場に並べた労力。そのすべてが、最後にはごみ袋の中に消えていきます。
消費者庁が公表した2024年度の食品ロス量は461万トンでした。前年度の464万トンから3万トン減っています。減少したこと自体は前進です。しかし、その内訳を見ると、食品関連事業者から発生する事業系食品ロスは237万トンで、前年度より6万トン増えています。
家庭系食品ロスは224万トンで減少した一方、事業者側のロスは増えたのです。さらに、食品ロスによる経済損失は3.8兆円、国民一人当たり年間3万1097円に相当すると推計されています。これは環境問題であると同時に、商いの問題です。

捨てているのは商品ではなく利益
食品ロスという言葉を聞くと、多くの人は「もったいない」という感情を思い浮かべます。もちろん、それは大切な感覚です。本来食べられるにもかかわらず捨てられてしまう食べ物を減らすことは、社会全体で取り組むべき課題です。環境省の食品ロスポータルサイトでも、食品ロスは「本来食べられるにも関わらず捨てられてしまう食べ物」と説明されています。
しかし、店の現場で考えるならば、食品ロスは「もったいない」だけで終わらせてはいけません。売れ残りは、利益の漏れです。仕入れた商品が売れ残る。仕込んだ商品が残る。売るために人が動いたのに、最後は値引きで処分する。それでも売れなければ捨てる。これは、粗利益を生むはずだった商品が、逆に費用となって店に戻ってくるということです。
しかも、食品ロスは数字に表れにくい損失です。売上は毎日確認しても、廃棄の理由まで丁寧に見ている店は多くありません。昨日は雨だったから仕方がない。今日は給料日前だから仕方がない。暑すぎたから仕方がない。そう言っているうちに、同じ時間帯、同じ商品、同じ曜日に、同じような売れ残りが出続けます。これでは、店は知らず知らずのうちに利益を失っていきます。
食品小売業の事業系食品ロスは48万トン、外食産業では70万トンとされています。食品製造業、卸売業も含めれば、事業系食品ロスは237万トンです。農林水産省は、納品期限の緩和、賞味期限の延長、未利用食品の寄附、外食での食べきりや持ち帰りなどを推進しています。 ただし、中小店にとって最も身近な対策は、まず自店の売れ残りを正面から見ることです。
欠品を恐れすぎると売れ残りが増える
食品を扱う店には、強い思いがあります。お客様が来たときに商品がないのは申し訳ない。夕方にも品ぞろえをきれいに見せたい。売場が寂しいと、店全体が弱く見える。だから、つい多めに仕入れ、多めに作り、多めに並べてしまいます。
この考え方は、決して間違いではありません。お客様を大切に思うからこそ、欠品を避けようとします。けれども、欠品を恐れすぎると、売れ残りが常態化します。いつも少し残る。最後は値引きする。値引き待ちのお客様が増える。定価で買うお客様が減る。すると、さらに利益が薄くなる。食品ロスは、単に捨てる量の問題ではなく、価格の信頼を壊す問題にもなります。
大切なのは、欠品ゼロを目指すことではありません。売れ残りを前提にした商売から、売り切ることを前提にした商売へ変えることです。売り切れは、必ずしも悪いことではありません。むしろ、人気がある証拠になります。「今日は売り切れました。明日は少し多めにご用意します」と伝えれば、お客様との会話が生まれます。「この商品は午後3時ごろが一番そろっています」と知らせれば、来店時間の提案になります。売り切れを謝罪で終わらせず、次の来店理由に変えればよいのです。
そのためには、感覚ではなく記録が必要です。何曜日に、何が、どれだけ残ったか。天候、気温、近隣行事、給料日、年金支給日、学校行事、商店街イベントなどと合わせて見ると、売れ残りには必ず傾向があります。勘の商売を否定する必要はありません。けれども、勘を磨くには、数字が必要です。数字は、商人の経験を冷静に支える道具です。

売り切る工夫は店の魅力を高める
食品ロスを減らすことは、単なる節約ではありません。店の魅力を高める取り組みです。売れ残りを減らそうとすれば、自然にお客様を見るようになります。どの時間に誰が来るのか。何を求めているのか。まとめ買いする人は誰か。少量でよい人は誰か。すぐ食べたい人と、明日の朝に食べたい人は違います。食品ロス削減は、顧客理解を深める入口になります。
たとえば、閉店前に値引きするだけでなく、夕方の早い時間に「今日のおすすめ」を伝える。売れ残りそうな商品を、ただ安くするのではなく、食べ方や組み合わせを提案する。惣菜なら「ご飯にのせれば丼になります」、青果なら「今夜使い切れる少量パックです」、菓子なら「明日の手土産にも使えます」と伝える。商品は、説明されることで価値を取り戻します。
予約販売も有効です。毎日残る商品があるなら、つくる量を減らすだけでなく、必要なお客様に事前に声をかけることができます。「明日もご用意しましょうか」「取り置きできます」「夕方受け取りでも大丈夫です」。この一言は、食品ロスを減らすだけでなく、固定客を育てます。お客様は、自分のために用意してくれる店を忘れません。
小分け販売も見直す価値があります。高齢化が進む地域では、量が多すぎることが購入をためらう理由になります。家族の人数が減り、食べる量も変わっています。大きなパックで売れ残るなら、小さく分ける。高く見えるなら、使い切れる価値を伝える。食品ロスの削減は、現代の暮らしに合った売り方への転換でもあります。
外食でも同じです。食べきれる量を選べる。ご飯の量を聞く。持ち帰りへの配慮をする。注文時に一言添える。それだけで、廃棄は減ります。お客様に我慢を求めるのではなく、気持ちよく選べる仕組みをつくることが大切です。
食品ロスを減らす店は利益を大切にする
食品ロス461万トンという数字は大きすぎて、現場の一人には遠く感じられるかもしれません。けれども、店の一日は小さな判断の積み重ねです。今日は何をどれだけ仕入れるか。何時にどれだけ作るか。どの商品を前に出すか。いつ声をかけるか。どの段階で売り切る工夫をするか。その一つひとつが、ロスを減らし、利益を守り、お客様との関係を深めていきます。
売れ残りは、単に商品が余ったという事実ではありません。お客様の暮らしと、店の売り方が少しずれた結果です。そのずれに気づき、直していくところに、商いの成長があります。捨てる量を減らすことは、地球にやさしいだけではありません。店にやさしく、働く人にやさしく、お客様にもやさしいことです。
商人にできる食品ロス対策は、大きなスローガンを掲げることではありません。明日の仕入れを少し見直すことです。今日の売場で一言添えることです。残った理由を記録することです。売り切れを恐れず、次に来てもらう約束をつくることです。
食品ロスを減らす店は、利益を大切にする店です。利益を大切にする店は、商品を大切にします。商品を大切にする店は、お客様の暮らしをよく見ています。売れ残りを減らすことは、商いを小さくすることではありません。商いを強くすることなのです。





