笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

クレームは怖いものですか?

クレームが怖くてたまりません。どう対応すればよいでしょうか?

 

ある店の従業員から、こんな質問を受けました。お客様から叱られると、頭が真っ白になる。何を言えばよいのかわからなくなる。自分が責められているように感じて、気持ちが沈んでしまう。だから、クレームになりそうなお客様を見ると、つい身構えてしまう。こう本人は悩んでいました。

 

責任感のある人です。お客様に迷惑をかけたくないと思っています。けれども、そのまじめさが、クレームを必要以上に怖いものにしていました。この悩みは、多くの売場で起きています。なぜなら、クレームを「怒られること」とだけ受け止めてしまうからです。

 

たしかに、強い言葉で叱られることはつらいものです。理不尽に感じることもあります。自分のせいではないと思うこともあるでしょう。しかし、クレームはいつも敵意から生まれるわけではありません。

 

お客様が求めているのは、誰かを困らせることではありません。自分の困りごとをわかってほしいのです。期待していたことと違った理由を知りたいのです。そして、もう一度「この店を信じてもよい」と思える対応を待っているのです。

 

 

クレームは攻撃ではなく期待の表れ

 

クレームを受けると、人は反射的に守りに入ります。「こちらに落ち度はない」「説明したはずだ」「そんな使い方をされたら困る」といった言葉が心の中に浮かぶこともあります。

 

しかし、最初から正しさで返そうとすると、お客様の気持ちはさらに離れていきます。お客様は、まず自分の不満や不安を受け止めてほしいからです。事実の確認は大切です。けれども、その前に必要なのは、「困らせてしまった」という姿勢です。

 

たとえば、商品が思っていたものと違ったとお客様が来店されたとします。そのとき、「これはそういう商品です」と返せば、説明としては正しいかもしれません。けれども、お客様の心には届きません。

 

「ご期待と違っていたのですね。ご不便をおかけしました」。このひと言があるだけで、空気は変わります。お客様は、自分の不満を否定されなかったと感じます。そこから、ようやく事実を確認し、解決策を一緒に考えることができます。

 

クレームは、店を嫌いになった人だけが言うものではありません。むしろ、まだ期待しているから言ってくださることがあります。本当にあきらめたお客様は、何も言わずに去っていきます。そして二度と戻ってきません。

 

声にしてくださるお客様は、店に直す機会を与えてくださっているのです。

 

 

最初に必要なのは説明よりも受け止めること

 

クレーム対応で大切なのは、うまく言い返すことではありません。まず受け止めることです。受け止めるとは、すべてを認めることではありません。お客様の困りごとや不快な思いを、いったん自分の前に置くことです。

 

「それはお困りでしたね」「ご不快な思いをさせてしまいました」「詳しくお聞かせいただけますか」といった言葉は、逃げるための言葉ではありません。解決に向かうための入口です。

 

お客様が強い口調になると、こちらも早く終わらせたくなります。謝れば済むと思うこともあります。反対に、言い分を全部説明したくなることもあります。けれども、どちらも急ぎすぎです。

 

大切なのは順番です。まず聞く。次に気持ちを受け止める。それから事実を確認する。そして、できることとできないことを誠実に伝える。この順番を間違えなければ、クレームは必要以上にこじれません。

 

もちろん、すべての要望に応えることはできません。交換できないこともあります。返金できないこともあります。店として守るべきルールもあります。けれども、断るときほど言葉を尽くす必要があります。

 

「できません」で終わらせるのではなく、「この理由で交換はできませんが、今後お使いになる際はこの方法なら安心です」と伝える。あるいは、「今回はご希望に沿えませんが、次回から同じことが起きないように、この点を確認してご案内します」と伝える。

 

できないことを伝えるときにも、お客様を見捨てない姿勢は示せます。そこに、店の誠実さが表れるのです。

 

 

クレーム対応は信頼を取り戻す仕事

 

では、クレームを怖がらずに向き合うには、何から始めればよいのでしょうか。第一歩は、クレームを自分への攻撃ではなく、店への知らせとして受け止めることです。

 

お客様が怒っている理由の奥には、たいてい期待があります。早く使いたかった。大切な人に贈りたかった。安心して買ったつもりだった。この店なら大丈夫だと思っていた。その期待が裏切られたと感じたとき、人は声を上げます。

 

だから、見るべきなのは怒りの強さだけではありません。その奥にある期待です。「このお客様は何に困ったのだろう?」「どんな期待が外れたのだろう?」「どうすれば、もう一度安心していただけるだろう?」といった“小さな問い”を持つだけで対応は変わります。

 

クレーム対応が上手な人は、特別に強い人ではありません。謝るのがうまい人でもありません。お客様の感情に引きずられすぎず、その奥にある困りごとを見ようとする人です。

 

そして、対応を自分だけで終わらせません。なぜ起きたのか。表示がわかりにくかったのか。説明が足りなかったのか。商品管理に問題があったのか。店内で共有し、次に同じことを起こさないようにする。そこまでして、クレームは店の学びになります。

 

クレームは怖いものです。怖いと感じること自体は、悪いことではありません。お客様を大切に思うからこそ、叱られることがつらいのです。その感性は、商人にとって大事な土台です。けれども、そこで逃げてはいけません。

 

次にクレームを受けたとき、こう問いかけてみてください。

 

「このお客様はいま、何をわかってほしいのだろうか?」

 

その問いを持った瞬間、クレーム対応は謝るだけの作業ではなくなります。信頼を取り戻す仕事になります。お客様の声に向き合う店は、失敗から強くなります。そして、その姿勢こそが“また来たくなる店”をつくっていきます。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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