◆今日のお悩み
原油価格の高騰が続き、電気代、物流費、原材料費など、あらゆるコストが上がっています。どこまで我慢すればよいのか、いつ落ち着くのかも見通せません。
価格転嫁をすべきなのか。まずはコスト削減を徹底すべきなのか。それとも、別の打ち手を考えるべきなのか。原油高の時代に、企業は何を基準に経営判断をすればよいのでしょうか。
値上げの前に経営の前提が変わっている
ガソリンスタンドの価格表示を見て、思わず二度見する。少し前までと同じ感覚で給油すると、支払額は確実に重くなっています。配送業者からは運賃改定の案内が届き、電気料金の請求書にもため息が出る。原材料の値上げに加え、包装資材、物流費、光熱費まで上がり、あらゆるコストがじわじわと経営を圧迫しています。
経営者にとって厄介なのは、上昇そのものよりも「読めない」ことです。いつ落ち着くのか。どこまで上がるのか。確かな見通しが立たないため、価格改定の判断も難しくなります。
値上げをすれば客足が遠のくかもしれない。しかし価格を据え置けば利益が削られる。せっかく値上げをしても、次の仕入れではさらにコストが上がっている。追いついたと思った瞬間に、また差が開く。この繰り返しが、現場を疲弊させていきます。
いま起きているのは、単なる価格の変化ではありません。経営の前提そのものの変化です。だからこそ、値札だけを見ていては答えは出ません。見るべきものは、原油価格ではなく、その変化によって揺れ動くお客様の暮らしと判断です。
歴史に学ぶ企業は危機を価値に変える
原油高の時代を考えるうえで、思い出すべき歴史があります。1970年代のオイルショックです。エネルギー価格の高騰は、自動車産業に大きな衝撃を与えました。それまで価値とされていた「大きくて力強い車」は、燃料費の上昇によって見直しを迫られます。お客様の選択基準は、「燃費が良く、経済的な車」へと大きく変わっていきました。
この変化を捉えた企業の一つがトヨタでした。小型車の開発を進め、燃費の良さを単なる性能ではなく、安心して長く乗れる価値として打ち出していきます。重要なのは、小さい車をつくったことではありません。社会の変化によって、お客様が何を不安に感じ、何を価値として選ぶようになったのかを見抜いたことです。
危機のなかで企業を分けるのは、技術の優劣だけではありません。顧客の変化をどれだけ早く、深く捉えられるかです。ガソリン価格の上昇という事実の先にある、お客様の不安、節約意識、選択基準の変化を見抜いた企業だけが、新しい価値をつくることができます。
環境が変わるとき、お客様もまた変わります。その変化を見誤らない企業が、次の時代をつくるのです。
小さく、無駄なく、強くなる
オイルショックは、小売業にも大きな転換を迫りました。電力費や輸送コストの上昇は、店舗運営の前提を揺るがします。そこで問われたのは、「いかに効率よく売るか」ということでした。
その時代に成長した業態の一つが、コンビニエンスストアです。限られた売場で、売れる商品に絞り込み、回転率を高める。売れない商品を抱え込まず、必要なものを必要な分だけ供給する。大きく構えるのではなく、小さく、無駄なく、高回転で売る発想です。
この考え方は、原油高の現在にも通じます。コスト削減というと、電気を消す、仕入れを減らす、人件費を抑えるといった対症療法に走りがちです。もちろん無駄な支出を見直すことは必要です。しかし、それだけでは限界があります。
本当に問われているのは、無駄を削ることではなく、無駄が生まれにくい構造に変えることです。商品構成、在庫の持ち方、物流、売場のつくり方、働き方。これらを一体で見直すことで、コストに振り回されにくい経営体質が生まれます。
危機は、見えなかった無駄を浮き彫りにします。平時には許されていた過剰な在庫、非効率な物流、売れない商品に費やす労力が、危機の時代には経営を圧迫する要因になります。だからこそ、危機は企業を苦しめるだけでなく、企業を鍛える機会にもなるのです。
ツルヤに見る広げない強さ
長野県を中心に展開するスーパーマーケット「ツルヤ」は、原油高の時代に考えるべき大切なヒントを与えてくれます。
ツルヤは、派手な価格競争に頼る店ではありません。独自の商品づくりと、効率的な店舗運営によって支持を集めてきました。地元の農産物を活用したジャム、ドレッシング、加工食品など、自社開発商品を充実させ、「ここでしか買えない価値」をつくっています。お客様は単に安いから買うのではなく、品質、安心、信頼で選んでいるのです。
また、売場づくりにも無駄がありません。過剰な品ぞろえを避け、売れる商品に集中することで在庫ロスを抑え、回転率を高めています。見た目の派手さよりも、日々の運営の精度を重視する姿勢が、経営の安定性を支えています。
さらに強いのは、地域との関係です。地元生産者とのつながりを持ち、仕入れから販売までの距離を短くする。遠くから運ぶのではなく、近くでつくり、近くで届ける。この仕組みは、物流費やエネルギー価格が不安定な時代において、大きな強みになります。
ツルヤの取り組みは、特別な奇策ではありません。無理に広げないこと。無駄を持たないこと。自分たちの強みを磨き続けること。その積み重ねが、環境変化に強い経営体質を生んでいます。
強い店とは、何でもできる店ではありません。自分たちは何で選ばれるのかを知り、その価値を磨き続けている店です。

分岐点は価格ではなく価値にある
原油高のように外部環境が大きく揺らぐとき、企業は同じ問いに直面します。コスト上昇にどう対応するか。その答えは、三つに整理できます。
第一に、環境ではなく顧客を見ることです。原油価格や為替は、企業の外側で起きる事実です。しかしお客様は、その事実そのものではなく、それによって変化する自分の暮らしに基づいて行動します。支出を抑えるのか。価値あるものに絞るのか。安心できる店を選ぶのか。企業が向き合うべきは、価格ではなく、変化する顧客の意思です。
第二に、無駄を削るだけでなく、構造を変えることです。危機の局面では、どうしても節約が先に立ちます。しかし目先の節約だけでは、経営は強くなりません。商品構成、在庫、物流、売場、働き方を見直し、無駄が生まれにくい仕組みに変えることが必要です。
第三に、価値を再定義することです。価格が上がるとき、企業は「いかに安く見せるか」を考えがちです。しかしお客様は、単純な安さだけで選んでいるわけではありません。厳しい時代だからこそ、「この価格には理由があるか」を見ています。品質を守るための価格なのか。働く人を守るための価格なのか。地域の生産者を支えるための価格なのか。その意味を言葉と行動で示すことができれば、価格は単なる数字ではなくなります。
原油高の時代に企業の盛衰を分けるのは、価格対応ではありません。価値対応です。値上げするか、しないかの前に、自社は何を守り、何を磨き、何で選ばれるのか。その問いに向き合う店だけが、次の時代にも必要とされます。
変えられないものに悩みすぎないことです。原油価格も、為替も、国際情勢も、一つの店が思い通りに変えることはできません。けれども、商品構成は変えられます。在庫の持ち方は変えられます。伝え方は変えられます。お客様との関係も変えられます。
危機は、店の弱さをあぶり出します。同時に、店の強みを磨く機会にもなります。
#お悩みへのアドバイス
変えられないものに悩むな。
変えられるものに向き合え。
危機は分岐点である。
未来は選択で決まる。
※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」のオンラインメディア「Wedge ONLINE」の連載コラム「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。これまでのコラムもお読みいただけます。







