前回の「商人の数字」は粗利益率を取り上げました。売上高の中から、どれだけ利益が残るかを見る数字です。しかし、粗利益率だけを見ていても、店の実態を見誤ることがあります。そこで、必ず合わせて見ておきたい数字が「粗利益額」です。
粗利益額とは、売上高から売上原価を差し引いた金額です。計算式は、売上高から仕入原価を引くだけです。たとえば、売上高が100万円で、仕入原価が65万円であれば、粗利益額は35万円です。この35万円が人件費、家賃、水道光熱費、販促費、借入金返済、そして店の将来への投資を支える原資になります。
この数字が大切なのは、店を実際に動かす力は売上高ではなく粗利益額だからです。売上がどれほど大きくても、粗利益額が十分に残らなければ店は続きません。反対に売上規模は大きくなくても、必要な粗利益額を確保できていれば、堅実な経営ができます。
粗利益率は「割合」を示します。一方、粗利益額は「金額」を示します。たとえば、粗利益率50%の商品を10万円売れば、粗利益額は5万円です。粗利益率25%の商品でも40万円売れれば、粗利益額は10万円になります。率だけを見れば前者が優れているように見えますが、店を支える金額としては後者のほうが大きい場合があります。
だからこそ、粗利益率の高低だけで商品を判断してはいけません。粗利益率は高いが販売数が少ない商品もあれば、粗利益率は低いが客数を呼び、まとまった粗利益額を生む商品もあります。大切なのは、その商品が店全体の粗利益額にどう貢献しているかを見ることです。
粗利益額を見ると、売れ筋商品の本当の姿も見えてきます。よく売れている商品が、実は利益をあまり残していないことがあります。反対に、目立たない商品が安定して粗利益額を稼いでいることもあります。売場で場所を取っている商品、接客時間をかけている商品、販促で目立たせている商品が本当に店の利益に貢献しているのか。その確認に欠かせないのが粗利益額です。
たとえば、価格競争になりやすい定番商品は粗利益率が低くなりがちです。しかし、その商品を求めて来店するお客様が多く、他の商品との関連購買につながっているなら、店にとって重要な役割を持っています。一方で、粗利益率が高い商品でも、お客様に価値が伝わらず売れなければ粗利益額は増えません。率と額を合わせて見ることで、商品ごとの役割が見えてきます。
粗利益額は経費との関係で見ることも大切です。店には毎月必ず出ていくお金があります。人件費、家賃、光熱費、通信費、保険料、リース料、販促費などです。これらを支払う原資は、売上高ではなく粗利益額です。つまり、毎月いくらの粗利益額が必要なのかを知らなければ、売上目標も正しく立てられません。
たとえば、毎月の経費が150万円かかる店であれば、少なくとも150万円を超える粗利益額を生み出さなければ利益は残りません。粗利益率が30%の店なら、150万円の粗利益額を得るためには500万円の売上が必要です。粗利益率が40%なら、375万円の売上で同じ粗利益額を確保できます。この違いは、経営判断に大きく影響します。
売上目標を立てるときも、「前年比何%増」という見方だけでは不十分です。必要な粗利益額から逆算して、いくら売る必要があるのか。どの商品で粗利益額をつくるのか。どの部門を伸ばすべきなのか。そう考えることで目標は単なる願望ではなく、現場の行動につながる数字になります。
特に人件費が上がる時代には、粗利益額を見る重要性がさらに高まります。働く人にきちんと報いるには、その原資となる粗利益額を増やさなければなりません。賃上げは気持ちだけでは続きません。接客力、提案力、品揃え、値付けを磨き、粗利益額を増やすことで人を大切にする経営が現実になります。
粗利益額を増やす方法は、単に価格を上げることだけではありません。買上点数を増やす。関連販売を強化する。粗利益率の高い商品を育てる。値引きを減らす。死に筋在庫を減らす。予約販売や取り寄せで無駄を減らす。お客様に商品の価値を丁寧に伝える。こうした一つひとつの改善が粗利益額を積み上げていきます。
ただし、粗利益額を増やすことは、お客様から多く取ることではありません。お客様にとって価値のある商品を納得できる価格で提供し、その結果として店にも必要な利益が残る状態をつくることです。お客様の満足と店の利益は、対立するものではありません。よい提案ができればお客様は満足し、店には粗利益額が残ります。
数字は、商売を冷たくするものではありません。むしろ、商売を続けるための土台を教えてくれます。粗利益額を見ることは、売上のにぎわいの奥に、店を支える力がどれだけ残っているかを確かめることです。
粗利益額は、店を動かす本当の稼ぎを示す数字です。売上を追うだけでなく、いくら残し、その利益を何に生かすのかを考えることが専門店の経営を強くし、働く人とお客様の未来を守る力になります。






