笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

売上は店の勢いを表す大切な数字です。昨日より売れた。前年より伸びた。目標を超えた。売上が増えれば店には活気が生まれ、働く人の気持ちも前向きになります。

 

しかし、売上が増えているのになぜか手元にお金が残らないことがあります。忙しく働いているのに資金繰りが楽にならない。お客様は来ているのに利益が伸びない。そのときに必ず見ておきたい数字が「粗利益率」です。

 

粗利益率とは、売上高の中から仕入原価を差し引いた利益がどれくらい残っているかを示す数字です。計算式は、粗利益額を売上高で割り、100を掛けます。たとえば、売上高が100万円で、仕入原価が65万円であれば、粗利益額は35万円です。この場合、粗利益率は35%になります。

 

この数字が大切なのは、売上の大きさだけでは店の本当の力が見えないからです。100万円売っても、粗利益率が20%なら残る粗利益は20万円です。一方で、80万円の売上でも、粗利益率が40%なら粗利益は32万円になります。売上高だけを見れば前者のほうが大きく見えますが、店を支える力としては後者のほうが強い場合があります。

 

粗利益率は、商品の値付け、仕入れ、品揃え、値引き、販売方法の結果として表れます。高く売ればよいという単純な話ではありません。お客様が価値を感じ、納得して買ってくださり、そのうえで店にも利益が残る。その状態をつくるための数字です。

 

粗利益率が低下するときには、いくつかの理由があります。仕入価格が上がっているのに販売価格に反映できていない。値引き販売が増えている。粗利益率の低い商品ばかりが売れている。売れ残り処分が多くなっている。こうした変化を見逃すと、売上は変わらないのに利益だけが削られていきます。

 

特に現在は、原材料費、物流費、人件費、光熱費など、あらゆるコストが上がっています。仕入原価が上がっているにもかかわらず、以前と同じ価格で販売し続ければ、粗利益率は確実に下がります。お客様のために価格を据え置くことは、一見すると親切に見えます。しかし、利益が残らなければ、品揃えも接客もサービスも続けられません。店を守ることは、お客様への責任を守ることでもあります。

 

粗利益率を見るときは、店全体の数字だけでなく、商品別、部門別、仕入先別にも分けて見る必要があります。全体では問題がないように見えても、ある部門だけ粗利益率が低下していることがあります。よく売れる商品が、実はあまり利益を生んでいない場合もあります。反対に、売上数量は少なくても、しっかり利益を支えている商品もあります。

 

ここで大切なのは、粗利益率の低い商品をすぐに悪い商品と決めつけないことです。店にお客様を呼ぶための商品、定番として欠かせない商品、比較されやすい商品もあります。粗利益率は高ければよいというだけの数字ではありません。低い商品には低い理由があり、高い商品には高い価値を伝える工夫が必要です。大切なのは、どの商品で集客し、どの商品で利益をつくり、どの商品で店の専門性を伝えるかを考えることです。

 

たとえば、食品店であれば、日常的によく買われる定番品だけでなく、季節の惣菜、地域のこだわり商品、贈答品などを組み合わせることで粗利益率を整えることができます。衣料品店であれば、価格比較されやすい基本商品に加え、コーディネート提案や素材の良さを伝えられる商品を育てることが大切です。専門店の粗利益率は、商品を並べるだけでは高まりません。価値を伝え、選ぶ理由をつくることで守られます。

 

また、粗利益率は値上げの判断にも関わります。値上げは単に価格を上げることではありません。なぜその価格なのか。何が違うのか。買うことでどんな満足が得られるのか。お客様に伝わっていなければ、価格だけが目立ってしまいます。逆に、価値が伝わっていれば、適正な価格は店とお客様の双方を守る約束になります。

 

粗利益率を改善するには、仕入れの見直し、値付けの再検討、値引きルールの確認、売場での価値訴求、関連販売の強化など、いくつもの打ち手があります。どれか一つで急に変えるのではなく、日々の商いの中で少しずつ整えていくことが必要です。特に値引きは、売上を一時的に押し上げても、粗利益率を下げる大きな要因になります。値引きで売る前に、説明で売れないか、組み合わせで価値を高められないか、売場で魅力を伝えられないかを考えたいところです。

 

数字は、店に冷たい判断を迫るものではありません。むしろ、店を続けるために必要な現実を教えてくれるものです。粗利益率を見ることは、商品に込めた価値が価格として伝わり、商いとして成り立っているかを確かめることです。

 

売上を追うだけでは店の体力は見えません。どれだけ売れたかと同時に、どれだけ残ったかを見る。その習慣が値付けを磨き、品揃えを整え、専門店らしい提案力を強くしていきます。粗利益率は、売上の中に残る利益の質を映す数字です。お客様に喜ばれながら、店にも必要な利益を残すことが、商いを長く続けるための確かな土台になります。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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