笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

値上げの前にやるべきこと

売上はある。お客様も来てくださっている。けれども、手元に利益が残らない。いま多くの店がこうした悩みを抱えています。

 

仕入れ価格は上がり、人件費も上がり、光熱費も物流費も重くなっています。ならば販売価格を上げるしかない。そう考えるのは自然です。しかし、値上げは簡単ではありません。お客様に「高くなった」と感じられれば、来店頻度が下がるかもしれません。競合店と比べられ、「この店は割高だ」と思われる危険もあります。

 

そこで大切になるのが、単純な値上げではなく、店全体の利益構造を見直すことです。その代表的な考え方が「粗利ミックス」です。粗利ミックスとは、商品ごとの粗利益率の違いを踏まえ、売上全体の中で、より粗利益を残しやすい商品の構成比を高めていく手法です。価格を一律に上げるのではありません。売れている商品の組み合わせを変えることで、店全体の粗利益率を高めていくのです。

 

たとえば、粗利益率25%の商品ばかり売れている店と、粗利益率25%、40%、50%の商品がバランスよく売れている店では、同じ売上でも残る利益が違います。売上100万円でも、粗利益率が30%なら粗利は30万円、35%なら35万円です。売上を増やさなくても、粗利益率が5ポイント改善すれば手元に残るお金は大きく変わります。

 

しかも粗利ミックスのよいところは、お客様に強い値上げ感を与えにくいことです。価格比較されやすい定番商品は値頃感を保ち、価値を伝えやすい商品、独自性のある商品、関連商品、上位商品で利益を確保する。つまり、お客様の納得を損なわずに、店の利益体質を強くする考え方なのです。

 

 

人気商品が利益を残しているとは限らない

 

商売をしていると、どうしても「よく売れる商品」に目が向きます。毎日動く商品、まとめ買いされる商品、問い合わせの多い商品。こうした商品は店にとって大切です。売場に活気をつくり、来店動機にもなります。

 

しかし、ここで一つ確認したいことがあります。その売れ筋商品は本当に利益を残しているでしょうか。よく売れているけれど粗利益率が低い。価格競争に巻き込まれ、値引きしなければ売れない。売れるほど作業が増え、包装や配送の手間もかかる。こうした商品は、売上には貢献していても、利益には十分貢献していない場合があります。

 

一方で、販売数量はそれほど多くなくても、粗利益率が高く、店の個性を伝え、お客様の満足度も高い商品があります。専門店であれば、店主が目利きした商品、使い方まで説明できる商品、贈答や特別な用途に向く商品などです。こうした商品は、単に「高い商品」ではありません。お客様に選ぶ理由を伝えられれば、価格ではなく価値で判断していただける商品です。

 

粗利ミックスの第一歩は、商品を「売れているかどうか」だけで見ないことです。見るべき数字は三つあります。一つ目は、売上構成比です。売上全体のうち、その商品や商品群がどれだけを占めているかを見ます。二つ目は、粗利益率です。その商品が売れたとき、何%の利益が残るかを見ます。三つ目は、粗利額です。実際にいくらの粗利益を生んでいるかを見ます。

 

粗利益率が高くても、ほとんど売れなければ店全体への貢献は小さい。反対に、粗利益率が低くても、来店動機になり、関連販売につながる商品なら大切な役割を持っています。つまり、商品にはそれぞれ役割があります。

 

集客する商品。安心感をつくる商品。利益を残す商品。店の個性を伝える商品。次の成長をつくる商品。粗利ミックスとは、これらの商品を同じ物差しで見るのではなく、役割を見極め、売場全体として利益が残るように組み合わせることです。

 

 

粗利ミックスは売場の主役を変える技術

 

粗利ミックスを実践するとき、最初に行うべきことは値札を変えることではありません。売場の主役を変えることです。たとえば、価格比較されやすい定番品があります。お客様が日常的に買い、他店価格もよく知っている商品です。こうした商品を無理に値上げすると、「この店は高い」という印象を持たれやすくなります。ですから、定番品は値頃感を保ち、安心して買える商品として残します。

 

一方で、比較されにくく、説明によって価値が伝わる商品があります。独自仕入れの商品、店主おすすめの商品、産地や作り手の物語がある商品、使い方を提案できる商品、関連商品や上位商品です。ここを売場の前面に出していきます。このとき大切なのは、高粗利商品を「店が売りたい商品」として押し出さないことです。お客様は、店の都合には敏感です。利益率が高いからすすめられていると感じれば、たちまち不信感が生まれます。

 

そうではなく、お客様にとっての選ぶ理由に翻訳します。「長く使う方には、こちらを選ばれることが多いです」「初めての方でも失敗しにくい組み合わせです」「少量で味が決まるので、結果的に使いやすい商品です」「贈り物なら、こちらの方が印象に残ります」「買った後のお手入れまで考えると、こちらが安心です」といったように“選ぶ理由”を伝えると、価格ではなく用途や満足度で選んでいただけます。粗利ミックスの本質は、利益率の高い商品を売り込むことではありません。お客様にとって価値の高い選択肢を、自然に選びやすくすることです。

 

店頭では、商品を四つに分けて考えると整理しやすくなります。

 

一つ目は「見せ筋商品」です。店の入口や目立つ場所に置き、お客様の足を止める商品です。季節感や話題性、値頃感を伝える役割があります。

二つ目は「売れ筋商品」です。安定して売れ、欠品させてはいけない商品です。日常の来店理由を支えます。

三つ目は「儲け筋商品」です。粗利益率が高く、提案によって選ばれる商品です。POP、接客、セット販売によって育てるべき商品です。

四つ目は「育て筋商品」です。いまは売上が小さくても、店の個性や将来の柱になり得る商品です。すぐに数字だけで判断せず、伝え方を工夫しながら可能性を見ます。

 

この四つを意識すると、売場の見え方が変わります。単に商品を並べるのではなく、店として何を見せ、何で来店してもらい、何で利益を残し、何を育てるのかが明確になります。

 

 

 

利益を上げるほど顧客満足も高まる形をつくる

 

粗利ミックスは数字の話に見えます。しかし、本当に大切なのは、お客様の満足と店の利益を両立させることです。そのために有効なのがセット販売や関連販売です。単品価格を上げると、お客様はすぐに気づきます。しかし、用途に合わせた組み合わせで提案すると、価格よりも「便利さ」「楽しさ」「失敗しない安心感」が前に出ます。

 

食品店なら、「今夜の鍋セット」「朝食セット」「晩酌セット」「手土産セット」。衣料品店なら、「初夏のお出かけコーディネート」「出張に便利な組み合わせ」。自転車店なら、自転車本体に加えて、鍵、ライト、カバー、点検、保険を含めた安心提案。花店なら、花束に花瓶、栄養剤、メッセージカードを添えた贈り物提案。

 

こうした組み合わせの中に粗利益率の高い商品を自然に入れることで、全体の粗利益率は上がります。しかもお客様にとっては、単なる追加購入ではなく、「買ってよかった」と感じる完成度の高い買物になります。

 

もう一つ重要なのは、低粗利商品を悪者にしないことです。低粗利でも、来店を促す商品があります。価格安心感をつくる商品があります。お客様との接点を増やす商品があります。これらをなくしてしまうと、店の魅力そのものが弱くなる場合があります。

 

大切なのは、低粗利商品に利益を無理に求めるのではなく、役割を決めることです。低粗利商品は入口商品として活かす。その先に、関連商品、上位商品、独自商品を提案する。入口と出口を設計することで、店全体の粗利益率を改善していくのです。

 

反対に見直すべきなのは、粗利も低く、売れ行きも鈍く、店の個性にもつながっていない商品です。こうした商品は、棚を占有し、発注の手間を増やし、在庫リスクを高め、最後は値下げ処分になりがちです。粗利ミックスは商品を増やすことではありません。店に残すべき商品を選び直すことでもあります。

 

 

売場を変える力を持つ問い

 

粗利ミックスを進めるときは、毎月一度、商品群ごとの売上構成比と粗利益率を確認するだけでも効果があります。

 

「低粗利商品の比率が高くなりすぎていないか」
「高粗利なのに売場で目立っていない商品はないか」
「関連販売につながる商品が埋もれていないか」
「値下げ処分が多い商品はどれか」
「粗利額で本当に貢献している商品は何か」

 

こうした問いを持つだけで、売場は変わり始めます。

 

値上げは時に必要です。仕入れ価格が上がり続ける中で、価格改定を避けて通れない場面もあります。しかし、値上げだけに頼ると、お客様との関係が価格中心になってしまいます。その前にできることがあります。

 

売場の主役を変える。おすすめの順番を変える。セットの組み方を変える。低粗利商品の役割を決める。高粗利商品に買う理由を添える。死に筋商品を整理し、育てるべき商品に光を当てる。これが粗利ミックスです。

 

粗利益率を上げるとは、単に店が儲けることではありません。お客様にとって価値ある商品を、よりわかりやすく、より選びやすくすることです。お客様が納得して買い、店には利益が残る。その循環が生まれたとき、商売は強くなります。

 

粗利ミックスは、数字の改善策であると同時に、店の姿勢を映す鏡です。何を大切に売るのか。どの商品で信頼をつくるのか。どの商品で未来の利益を育てるのか。値上げの前に、まず売場の中に眠っている利益を見つける。そこから、無理なく、しなやかで、強い商いが始まります。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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