笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

一度きりで終わる店、もう一度来たくなる店

店の扉が開き、見慣れないお客様が入ってきます。初めての方だと、すぐにわかることがあります。店内を少し遠慮がちに見回し、棚の前で足を止め、値札やPOPを確かめる。商品に興味はある。けれど、まだ店との距離を測っている。そんな瞬間です。

 

このとき、店にとって大切なのは「買っていただくこと」だけではありません。もちろん、今日の売上は大事です。けれど本当に大事なのは、そのお客様がもう一度来てくださるかどうかです。

 

初回来店は出会いです。二度目の来店は関係の始まりです。初めてのお客様を常連に変える店は、一回目の買い物を次につながる体験に変えています。

 

 

初めての不安を最初にほどく

 

初めて入る店には少し緊張があります。何を売っているのか。どのくらいの価格なのか。見ているだけでもよいのか。質問してもよいのか。店側には当たり前のことでも、初めてのお客様にはわかりません。だからこそ最初に必要なのは、売り込みではなく安心です。

 

ある和菓子店では、初めての方らしいお客様にはすぐに商品説明を始めず、まずこう声をかけるそうです。「一個からでもお求めいただけますので、ゆっくりご覧ください」。この一言で、お客様の表情がやわらぎます。箱詰めで買わなければならないのではないか。高いものを勧められるのではないか。そうした小さな不安が消えるからです。

 

初めてのお客様は商品だけでなく、店の空気を見ています。歓迎されているか。急かされていないか。自分に合う店か。最初の一言が、その判断を大きく左右します。

 

 

「買って終わり」にしない一言を添える

 

初めてのお客様が商品を買ってくださったとき、そこで接点を終わらせてしまう店があります。「ありがとうございました」はもちろん大切な言葉です。けれど、それだけでは次につながる理由が残りにくいことがあります。

 

あるパン店では初めて食パンを買われたお客様に、会計時にこう添えます。「明日の朝は、少し厚めに切って焼くとおいしいです。次はロールパンもぜひ試してみてください」。これは、単なる追加販売ではありません。買った後の楽しみ方と、次に来る理由を手渡しています。

 

茶舗なら「今日のお茶は少し低めの温度で淹れると、甘みが出ます」。衣料品店なら「この上着は秋口まで使えます。次に合わせるなら、薄手のインナーが便利です」。雑貨店なら「贈られた方の反応を、よかったら次に聞かせてください」。こうした一言は商品とお客様の暮らしを結びつけます。そして、「また行ってみよう」という記憶になります。

 

二度目の来店は偶然だけでは生まれません。一度目の最後に、次への橋がかかっているかどうかで変わります。

 

 

二度目に気づける店は強い

 

お客様が二度目に来てくださったとき、店は大きな機会を迎えています。そこで「いらっしゃいませ」だけで終わるか、「先日はありがとうございました」と迎えられるか。この差はとても大きいものです。

 

ある青果店では、前回買われた果物を覚えていた店主が二度目の来店時にこう声をかけました。「この前の桃、ちょうど食べ頃でしたか」。お客様は驚き、そして嬉しそうに答えたそうです。「覚えていてくれたんですね」。この瞬間、店は単なる買い物の場所ではなくなります。自分を覚えてくれている店になります。

 

もちろん、すべてのお客様を完璧に覚えることは簡単ではありません。けれど、覚えようとする姿勢は伝わります。買われた商品、会話の内容、贈り物だったのか自宅用だったのか。少しでも記憶に残し、次に生かす。そこに小さな店の力があります。

 

常連客は、突然生まれるものではありません。初めての来店があり、二度目の来店があり、そのたびに少しずつ安心が積み重なって生まれます。初めてのお客様を迎えるとき、今日売ることだけを考えるのか。それとも、次にまた来ていただくことまで考えるのか。この違いが店の未来を分けます。

 

初回来店は偶然かもしれません。けれど、二度目の来店には理由があります。その理由をつくれる店が長く選ばれる店になっていくのです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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