笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

売場は商品を並べる場所ではない

開店前の売場。棚には商品が整然と並び、値札も付き、掃除も行き届いています。一見、きちんとした売場です。けれど、お客様の足が止まりません。手に取られません。見ているようで、見られていないのです。そんなとき、考えたいことがあります。売場は商品を並べる場所で終わっていないでしょうか。

 

もちろん、商品をきれいに並べることは大切です。欠品をなくし、見やすくし、買いやすくすることは商いの基本です。けれど、いまの時代、それだけではお客様の心は動きにくくなっています。商品はネット上でも買えます。価格も比較できます。情報も調べられます。

 

だからこそリアルな店の売場は、ただ商品があるだけではお客様の関心を惹くことはできません。その店が、店主が「なぜこれを選ぶのか」が見えることが求められます。

 

売場は選ぶ理由を伝える場所

 

商品が並んでいるだけの売場では、お客様は自分で判断しなければなりません。どれがよいのか? 自分に合うのか? いま買うべきなのか? 少しでも迷いが生まれると、購入は先送りされます。

 

ある食品店では、棚に調味料が多く並んでいました。どれも良い商品でしたが、初めてのお客様にとって、ただ並べられているだけでは、違いがわかりません。違いがわからなければ、人は安さで選びます。

 

そこで店主は、商品名や産地だけでなく、「焼き魚に」「冷奴に」「野菜炒めに」と用途別に並べ替えました。すると、お客様の反応が変わりました。「これなら今日使える」「うちの食卓に合いそうだ」と思えるようになったからです。

 

売場の役割は、商品を見せることだけではありません。お客様の頭の中に、使う場面を浮かべてもらうことです。選ぶ理由が見える売場では、商品は単なるモノではなく、暮らしの中で役立つものになります。

 

売場は店の考え方を表す場所

 

売場には、その店の姿勢が表れます。何を前に出しているか。どんな組み合わせで見せているか。どんな言葉を添えているか。そこには店主の考え方がにじみます。

 

ある衣料品店では、以前は商品を種類別に並べていました。シャツはシャツ、パンツはパンツ、羽織りものは羽織りものという具合です。整理はされていましたが、お客様とってみれば、「どう着ればよいか」「いつ着ればよいか」「どう組み合わせたらよいか」がわかりにくいものでした。

 

そこで、「朝晩が冷える日の通勤」「旅行に持っていきたい軽い服」「週末の外出にちょうどいい組み合わせ」と、気温や生活場面に合わせた売場に変えました。単品を並べるのではなく、着る場面を見せたのです。すると、買上点数が増えただけでなく、お客様から「こういう見せ方だと選びやすい」と言われるようになりました。

 

売場は、店からお客様への提案です。何を大切にしている店なのか。誰の暮らしを助けたいのか。どんな買い物体験をしてほしいのか。それが売場に表れている店は、価格だけでは比べられにくくなります。

 

売場はお客様に発見を渡す場所

 

お客様が店に足を運ぶ理由は、必要なものを買うためだけではありません。「何かいいものがあるかもしれない」「前と少し変わっているかもしれない」と感じられる店には、もう一度行きたくなります。

 

ある雑貨店では週に一度、入口近くの小さな棚だけを必ず変えるようにしています。季節、天気、行事、近所の暮らしに合わせて、テーマを決めています。「雨の日を少し楽しくするもの」「新生活にあると助かるもの」「贈り物に迷ったときの三点」という具合です。大きな改装ではありません。小さな変化です。けれど、その変化があることで、お客様は売場を見る楽しみを持ちます。

 

変わらない安心も大切です。しかし、何も変わらない売場はやがて見慣れた背景になってしまいます。小さな変化がある店は、店頭に新しい会話を生みます。売場は、商品を保管する棚ではありません。お客様に発見を渡す舞台です。

 

売場を変えるというと、大がかりな改装を思い浮かべるかもしれません。けれど、最初の一歩は小さくてよいのです。売りたい商品を一つ選び、その使い方を添える。関連商品を近くに置く。入口から見たときに、今日のおすすめが分かるようにする。それだけでも、売場の意味は変わります。

 

商品を並べるだけなら、店は倉庫に近づきます。商品に意味を与え、選ぶ理由を伝え、発見をつくることで、売場は生きた場所になります。店に来る価値は、そこに商品があることだけではありません。その商品とどう出会わせてくれるかにあります。だからこそ、問い直したいのです。あなたの売場は、商品を並べているだけで終わっていませんか?

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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