笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

常連を増やす人、減らす人の違い

店を続けていくうえで、最も心強い存在は誰でしょうか。そう問われたら、多くの商人は「常連のお客様」と答えるでしょう。定期的に来てくださる。こちらのことを信頼してくださる。新商品にも耳を傾けてくださる。ときには周囲の人を連れてきてくださる。常連客は、単に売上を支える存在ではありません。店の空気をつくり、店の評判を育て、店の未来に安定をもたらしてくれる存在です。

 

けれど、常連客は自然に増えるわけではありません。立地が良いから増えるのでも、品揃えが多いから増えるのでもありません。もちろん、それらも無関係ではありませんが、もっと大きいのは、店が日々どんな関わり方をしているかに尽きます。

 

同じような商品を売っていても、常連が少しずつ増えていく店があります。反対に、新規客は来ても、なかなか次につながらない店もあります。その差はどこにあるのでしょうか。常連を増やす人と、減らす人の違い。そこには商いの本質がよく表れています。

 

常連とは「また来る理由がある客」

 

常連客というと、つい「来店頻度の高いお客様」と考えがちです。もちろん、それは一つの見方です。けれど本質は単に回数ではありません。常連とは、その店にまた来る理由を持っている人です。

 

値段が安いから来る。近いから来る。品揃えが便利だから来る。そうした理由での来店もありますが、それだけでは常連になりきりません。なぜなら、その条件が別の店で満たされれば、簡単に離れてしまうからです。常連を本当の意味で支えているのは「この店だから」「この人から買いたいから」という理由です。

 

福岡市のある青果店では高齢のお客様がよく訪れます。特別安いわけでも、圧倒的に品揃えが多いわけでもありません。それでも通い続ける人が多いのです。その理由を聞くと、「ここは食べ方まで教えてくれるから」「一人分の買い方を教えてくれるから」という声が多かったそうです。

商品を並べるだけではなく、「今日は暑いから、これならさっぱり食べられますよ」「この量なら二日でちょうどいいですね」と、その人の暮らしに合わせて言葉を添えましょう。お客様は、野菜を買っているようでいて、実は安心も買っているのです。

 

反対に、常連を減らす店では、来店を「一回の売買」で終わらせてしまいがちです。会計は正確、接客も丁寧、でも次につながるものが残りません。「ありがとうございました」で終わるだけでは、悪くはありませんが記憶にも残りにくい。常連が増える店はその日一回の取引で終わらせず、「次にまた来たくなる理由」を小さく渡しています。

 

「来週には、これの旬のものが入ります」「前回お好きだった味に近いのが、今日ありますよ」「次は、こちらも試してみてください」といった一言を添えることは、大きな販促ではありません。けれど、お客様にとっては、「自分のことを見てもらえている」という確かな体験になります。常連は回数で増えるのではなく、関係が積み重なって増えるのです。

 

常連を増やす店は「覚える」、減らす店は「処理する」

 

常連客との関係で、決定的に大きいのは「覚えているかどうか」です。もちろん、すべてのお客様の名前や好みを完璧に覚えるのは簡単ではありません。けれど、常連を増やす店は、少なくとも「前に来てくださったこと」を忘れない努力をしています。

 

たとえば、和菓子店で「この前の桜餅、お口に合いましたか?」と声をかける。衣料品店で「前回お求めのジャケットに合うものが入りました」と伝える。喫茶店で「いつものブレンドでよろしいですか?」と聞く。こうしたことは一つひとつは小さいのですが、お客様の側から見れば、「ここは自分を覚えてくれている店」になります。この感覚が生まれると、価格や利便性を超えたつながりが生まれます。

 

津山市のある眼鏡店では、購入後の調整に来られたお客様に対して、単にネジを締めたり掛け心地を直したりするだけでなく、「その後、お仕事では使いやすいですか?」「夜の運転では見え方はいかがですか?」と一言添えるそうです。その積み重ねで、お客様は「売って終わりではない」と感じ、家族や知人にもその店を勧めるようになる。常連が常連を連れてくる流れができるのです。

 

反対に、常連が減りやすい店には、「処理」の空気があります。会計を済ませる。商品を渡す。用件を終える。一つひとつは正しい。けれど、お客様は「こなされた」と感じることがあります。忙しいときほど、この傾向は強くなります。効率を優先するあまり、目の前の人を“対応件数の一つ”として扱ってしまうのです。

 

常連客が離れるとき、必ずしも大きな不満があるわけではありません。むしろ、「なんとなく足が遠のいた」という形で静かに離れていきます。これは怖いことです。派手なクレームはない。けれど、関係が薄れている。常連を減らすのは、失礼な言葉だけではありません。関心の薄さもまた、お客様を遠ざけます。

 

店が覚えていてくれる。好みや暮らしを少しってくれている。会話がつながる。そうした積み重ねが、「またあの店に行こう」という気持ちを育てます。常連とは、店がつくる記憶の産物でもあるのです。

 

常連を増やす人が「売上」を追う前に育てているもの

 

商いである以上、売上は大事です。数字から目を背けるわけにはいきません。けれど、常連を増やす人は、不思議なくらい目先の売上だけを追いません。むしろ、その場で無理に売り込まないことすらあります。なぜなら、今日一回の売上より、次も来ていただける関係のほうが大きいと知っているからです。

 

奈良市のある食器店では、迷っているお客様に無理に高額商品を勧めず、「最初は使いやすいこの一枚からでも十分ですよ」と案内するそうです。その場の売上だけ見れば、もっと高い商品を売った方が良いのかもしれません。けれど、お客様は「この店は自分に合うものを考えてくれた」と感じる。そして後日、追加で買いに来たり、贈り物を選びに来たりする。結果として、関係が深くなり、長い目で見れば売上も育つのです。

 

反対に、常連を減らしやすい人は、毎回の会計を最大化しようとしすぎます。せっかく来たのだから、もう一品。ついでにこちらも。いま買わないと損。そうした売り込みが重なると、お客様は徐々に疲れます。店に入るたびに構えなければならない店は、やがて足が遠のきます。

 

常連を増やす人は、売上を軽く見ているわけではありません。ただ、売上の源泉がどこにあるかを知っています。それは、その場の押し込みではなく、「また来たい」と思っていただける関係の蓄積です。

 

常連客は、一日でつくられるものではありません。一言一言、一回一回の接客、一つひとつの気づかいが、時間をかけて信頼に変わっていく。その先に初めて、「また来たよ」と言ってくださる方が増えていきます。

 

だからこそ、常連を増やすか減らすかの別れ道は、特別な販促や大きな投資にあるのではありません。日々の商いの中で、お客様を「売上」として見るか、「関係」として見るか。その違いにあります。店は多くのお客様に支えられています。けれど、店を育てるのはいつも一人ひとりとの関わりです。常連を増やす人は、そのことを知っているのです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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