笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

朝、店のシャッターを開けた瞬間に、むっとした熱気が押し寄せる。舗道の照り返しは早い時間から強く、昼前には外を歩く人の足取りが明らかに重くなる。近年の夏は、もはや「暑い」では済まされません。

 

気象庁は、最高気温40℃以上の日の名称を「酷暑日」と定め、今後の情報発信でも活用していくと発表しました。背景には、40℃を超える気温が毎年のように観測される状況があり、アンケートでも「酷暑日」が最も多く支持を集めています。

 

この事実は、商業者にとって見過ごせない変化です。なぜなら、季節の厳しさがここまで増すと、お客様の暮らし方も買い物の仕方も、店に求める役割も変わるからです。暑さはたしかに経営にとって逆風です。来店客数は落ちやすく、外出そのものが控えられ、食品管理や売場管理の難しさも増します。

 

しかし同時に、暑さが厳しいほどお客様の困りごとははっきりします。困りごとがはっきりするということは、店が役立てる余地もまたはっきりするということです。「暑いから売れない」で終わるのか。「暑いからこそ必要とされる店」になるのか。この差が今夏の商機を分けます。

 

 

暑さで変わる暮らしを売場で先回りする

 

夏に売れるものを並べるだけなら、どの店でもできます。冷たい飲料、涼感商品、冷房関連商品、日よけ用品。もちろん、それらは必要です。けれど、ただ商品を前に出すだけでは、価格競争に巻き込まれやすく、「どこで買っても同じ」売場になりがちです。大切なのは商品を売ることではなく、暑さで変わる暮らしを読み取り、その不便や不快を軽くする提案に変えることです。商いとあ“不”の解消業です。

 

たとえば食品店なら、冷たいものを置くだけでは足りません。食欲が落ちる日の昼食、火を使いたくない夕食、外出後すぐに口にしたい一品、汗をかいた日の水分や塩分の補給。そうした生活場面まで思い描いて売場を組めば、同じ商品でも意味が変わります。

 

青果店なら、「冷やしておいしい」だけでなく、「朝の水分補給に向く果物」「疲れた日の口当たりがやさしい果物」と一歩踏み込んで見せることができます。惣菜店なら、「今日はもう台所に立ちたくない」というお客様の本音に応える献立提案がそのまま価値になります。

 

衣料品店でも同じです。「涼しげに見える服」ではなく、「本当に涼しく過ごせる服」を、通勤、買い物、旅行、屋外行事など場面別に語りましょう。雑貨店なら、冷感グッズを並べるだけでなく、「通勤用」「就寝用」「台所仕事用」「高齢の親への贈り物用」と用途を明確にします。ドラッグストアなら、熱中症対策の基本と商品を結びつけて見せましょう。ここまでして初めて、お客様は「買うべき理由」を見つけられます。

 

商機とは、売れ筋商品に飛びつくことではありません。困りごとに、店としての答えを用意することです。酷暑日という新しい言葉が生まれたのは、それだけ従来の延長線では語れない暑さになったからです。商人もまた、従来どおりの売り方の延長ではなく、暑さで変わった生活に合わせて自店の役割を言い直さなければなりません。

 

 

売る店ではなく「助かった」と思われる店になる

 

酷暑の夏は、来店そのもののハードルが上がります。外へ出ることが負担である以上、お客様はこれまで以上に「その店に行く意味」を求めます。だからこそ店は、商品がある場所から、行く理由のある場所へと変わる必要があります。

 

そのためにまず必要なのは、暑さへの気づかいを売場や接客に織り込むことです。たとえば、店頭に日陰を意識した案内をつくり、少し休める場所を整え、冷たいおしぼりや給水の一言を用意し、暑い時間帯を避けた来店の目安を伝えましょう。こうした工夫は、直接売上になるようには見えません。けれど、お客様は「売ろうとしてくる店」と「気づかってくれる店」の違いを敏感に感じ取ります。その差はすぐに数字に見えなくても、信頼として積み上がっていきます。

 

さらに重要なのは“言葉”です。「おすすめです」では伝わりません。「暑さで食欲がない日に」「外から帰ってすぐに」「火を使いたくない夜に」「ご高齢のご家族への備えに」――そうした生活場面を添えることで、商品は単なるモノから、今日を乗り切る助けへと変わります。お客様が買うのは、商品そのものではありません。その商品がもたらす安心です。

 

明日、売場を変えるなら、大がかりなことから始める必要はありません。まずは一つ、「酷暑の一日を助ける提案」を商品群でつくってみることです。POPに「暑くて何もしたくない日の夕食に」「外出後の水分補給に」「寝苦しい夜の備えに」と一言添えるだけでもいい。あるいは来店されたお客様に、「今日は本当に暑いですね。こういう日に役立つものを集めています」とひと言かけてみる。その小さな実践が、売場を単なる陳列から暮らしを助ける提案へと変えます。

 

今年の夏は厳しくなるでしょう。けれど、厳しい季節だからこそ、店の真価が出ます。暑さを嘆くだけの店ではなく、暑さの中で役に立つ店になること。お客様に「この店があって助かった」と思われること。その記憶は、夏が終わっても残ります。商機とは、気温そのものの中にあるのではありません。変化した現実に合わせて、店の役割を磨くところに生まれるのです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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