笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

地域が育てる“食の物語”

「この街に来たら、これを食べなきゃ」

 

そんな言葉を生むのが、ご当地グルメです。近年ではB-1グランプリの盛り上がりをきっかけに、全国各地で多彩な“地元の味”が誕生しました。

 

しかし、同じご当地グルメでも、その生まれ方や育ち方には大きな違いがあります。今回は「発祥のタイプ」を3つに分け、それぞれにふさわしい育て方を考えてみましょう。

 

自然発生型──暮らしの中から生まれる味

 

最も古く、そして最も力強いのが、この「自然発生型」です。地域の気候や風土、農産物の特性、生活文化から自然に生まれ、長年にわたり地元で愛されてきた料理です。

 

たとえば、青森の「せんべい汁」は、寒冷な気候の中で保存食として発展しました。秋田の「きりたんぽ」も、狩猟や木材伐採の際に手軽に食べられる携帯食が起源です。どちらも“暮らしの知恵”から生まれ、地域の人々が当たり前に食べてきたものが、やがて観光資源となりました。

 

 

育て方のポイント
自然発生型の魅力は“生活文化そのもの”にあります。観光客向けに派手なアレンジを加えるよりも、「昔ながらの食べ方」「受け継ぐ人々の思い」を丁寧に伝えることが大切です。たとえば長野・戸隠の「そば」は、地粉の風味や職人技を前面に出すことで、“本物志向”のファンを増やし続けています。

 

特定店舗創出型──一軒の挑戦が地域を変える

 

次に注目すべきは、ある店や企業の創意工夫から始まり、やがて地域全体の名物へと広がった「特定店舗・企業創出型」です。代表例の一つに、北海道・札幌の「スープカレー」があります。

1990年代初頭、札幌市内の喫茶店「アジャンタ」が薬膳カレーを提供したのが始まりとされています。その後、「マジックスパイス」など個性的な専門店が登場し、スパイスや具材、辛さなどを自由にアレンジする“札幌スタイル”が確立。やがてテレビや雑誌で紹介されることで一気にブームとなり、今では全国に広がりました。

 

この流れは、まさに“一軒の挑戦”が“地域の文化”へと成長した典型例です。特定の企業や店舗の発想が共感を呼び、他の事業者が参入し、結果として地域ブランドになったのです。

 

 

育て方のポイント
このタイプでは、“個の発信力”を“地域の力”に変える仕組みづくりが重要です。そのためには、次のような「連携による拡張」が鍵になります。

1.共通ルール(素材・盛り付けなど)のゆるやかな共有
2.地元産食材の活用など“地域性”の再接続
3.ストーリー発信による“地元発”ブランドの強化

 

個店の創造性を尊重しつつ、街としての統一感を演出することで、“多様性の中の一体感”が生まれます。札幌スープカレーはその成功モデルです。

 

自治体仕掛け型──まちづくり戦略としてのグルメ

 

三つめは、行政や商工団体が主導して地域活性化の一環として仕掛ける「戦略型ご当地グルメ」です。代表的なものに、愛知・豊橋市の「豊橋カレーうどん」や、徳島・鳴門市 + 兵庫・南あわじ市の両市による「うずの幸グルメ」などがあります。

 

これらは地元の食材を生かし、自治体や商工会議所、観光協会などが協働で商品化・ブランド化した事例です。また、愛知県岡崎市の「八丁味噌グルメ」や、佐賀県唐津市の「唐津バーガー」なども、地域資源をテーマ化することで、街全体の魅力を高めています。

 

 

育て方のポイント
行政主導の取り組みでは、“誰がつくっても同じ味”になりがちな弱点があります。重要なのは、「地域の人が誇りを持って関わる仕組み」をつくることです。具体的には次のような取り組みを通じて、「行政がつくる」ではなく「地域が一緒に育てる」姿勢をとり続けることが成功のカギとなります。

1.商品開発ワークショップへの住民・学生参加
2.“認定店制度”による事業者の巻き込み
3.SNS・イベントを通じた“地元発信”の促進

 

ご当地グルメは“地域の物語”

 

ご当地グルメは単なる「食」ではなく、“地域の物語”そのものです。それは、生活の知恵から生まれた自然発生型であれ、一軒の挑戦から始まった創出型であれ、行政が旗を振る戦略型であれ、根底にあるのは「人がつくり、人が育てる」という営みです。

 

そして成功する地域には共通点があります。それは「うまいものをつくる」こと以上に、「うまい物語を伝える」ことに力を入れている点です。

 

観光客に“味”だけでなく“背景”を伝え、地元の人が“誇り”を持って語れるようになる。その瞬間、グルメは「商品」から「文化」に変わります。ご当地グルメとは、地域が自らの魅力を再発見し、未来へつなぐための“食べられる文化遺産”なのです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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