「人の命の終わり方」が、社会のあり方を映す鏡になるとしたら——。2024年、日本で7万6020人が自宅において独りで亡くなっています。そのうち76.4%にあたる5万8044人は65歳以上の高齢者です。
警察庁による初めての集計で明らかになったこの数字は、単なる統計以上の意味を持っています。自宅において独りで死ぬ高齢者は、全体の死者約161万人の中で単純計算3.6%にも上ります。私たちの身近な地域社会で、この「誰にも看取られずに亡くなる」現実が着実に起きているのです。
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さらに深刻なのは、死亡推定時点から発見までに時間がかかるケースです。65歳以上の独り暮らしの高齢者のうち、発見が「1カ月以上」遅れた人は4538人にのぼります。定期的に様子を見に来る親族や知人がいないため、郵便物の異常な蓄積などでようやく発見されることもあります。孤独は目に見えません。しかし、その影響は命に直結するのです。
こうした孤独死の増加に対して、政府は孤独・孤立対策推進法を施行し、社会全体で問題に取り組む姿勢を示しています。警察庁の集計結果は、その議論の土台となるものであり、単身高齢世帯の増加が孤独死・孤立死問題の深刻化を加速していることを示しています。
店の気づき力で孤立を防ぐ
孤独死を防ぐために、地域商業にできることは少なくありません。商店や飲食店のスタッフは、毎日の接客で住民の様子を自然に把握できる存在です。いつも元気に来店していた常連客が何日も顔を見せない、あるいは普段と様子が違うといった小さな変化も、命を守る重要なサインになります。
さらに、商店どうしや地域の福祉団体と情報を共有する「見守りネットワーク」を構築すれば、孤立している高齢者への対応はより迅速かつ確実になります。商店は地域社会の「目」として機能できるのです。
孤独死の背景には、社会とのつながりの喪失があります。商店街や商店は、住民が気軽に集まれるイベントや居場所を提供することで、社会的なつながりを取り戻すことができます。
たとえば、地域食堂や健康教室、趣味のサークルなど、誰もが参加できる場を定期的に設けることです。子どもから高齢者までが交流できるイベントは、世代を超えた支え合いの文化を育み、孤立感を減らします。
情報発信と啓発で意識を高める
商店は掲示板やSNSを通じて、地域の福祉サービスや見守り活動の情報を発信することも可能です。また、孤独死防止に関する講座やワークショップを開催すれば、地域全体の関心と理解を深めることができます。「誰もが周囲に目を向ける社会」をつくることは、孤独死を減らすために欠かせません。
また、商店は地域の福祉サービスやNPOと連携し、孤立している高齢者への支援をスムーズに届けることができます。さらに、地域住民が参加できるボランティア活動を推進することで、助け合いの輪を広げることが可能です。商店は、地域全体の支援ネットワークをつなぐハブの役割を果たせます。
2024年のデータからも明らかなように、孤独死は増加傾向にあり、私たちの身近な地域社会の課題です。そして、他人事ではありません。しかし、地域商業が持つ力──日々の観察力、人とのつながりをつくる力、情報発信力──を活かすことで、多くの命を守ることができます。
商店は単なる物を売る場ではなく、地域住民の生活と心を支える「小さな社会の拠点」です。日々の営業を通じて人と人をつなぎ、見守り、助け合いの輪を広げる。その取り組みこそが、孤独死を減らし、地域の安全と安心をつくる大きな力になるのです。







