笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

数字だけを見ても、確かに目を見張るものがあります。良品計画の2025年8月期決算は、営業収益7,846億円(前期比18.6%増)、営業利益738億円(同31.5%増)。純利益も508億円と、2期連続の最高益を更新しました。

 

しかし注目すべきは、経営の巧みさだけにあるのではありません。「理念が利益を生む」ことを証明した成果なのです。

 

いま良品計画は、2028年8月期に営業収益1兆円・営業利益1,000億円という大きな目標に向けて歩みを進めています。その中心には、創業期からの哲学を経営に根づかせた一人の商人の存在があります。良品計画顧問、金井政明さんです。

 

理念を“上からの言葉”にしなかった経営者

 

 

金井政明さんが良品計画に入社したのは1987年。まだ「無印良品」が西友のプライベートブランドだった時代のことです。当時の無印良品は「安くて良い品」ではあっても、「何のために存在するのか」という問いには十分に答えられていませんでした。

 

そこに金井さんは、“思想”という軸を持ち込みました。「無印良品の目的は、ものを売ることではない。人が“感じ良く生きられる”社会をつくることだ」という理念を、経営の中心に据えたのです。

 

「感じ良い暮らし」という言葉は、いまや良品計画の経営理念として世界中の社員に共有されています。けれども、それを単なるスローガンにせず、“現場が使える言葉”にしたことこそ、金井さんの最大の功績でした。

 

たとえば、無印良品の「自主運営店舗」制度。各店の店長が自ら地域を観察し、顧客の暮らしに合った商品提案や売場づくりを行う制度です。こうした“マニュアルではなく、理念で動く現場”から生まれたのが「ローカルMUJI」です。地域の農家と協力して地元の野菜を扱う、あるいは地域の木材を使った家具を販売する。一店一店がその土地に根ざし、暮らしを支える存在へと進化しました。

 

理念は“額縁に入れる言葉”ではなく、“日々の判断の道具”。金井さんはそのことを経営の血肉にしました。だからこそ、今の良品計画はどんな環境変化にもぶれず、世界のどの街でも“感じ良い暮らし”を提案できるのです。

 

欧州再挑戦──理念が導く「第二の創業」

 

 

2026年秋、良品計画はパリ・リヴォリ通りに欧州最大の旗艦店を出店します。新型コロナ禍で一度は撤退を決めた欧州市場への再挑戦です。当時、堂前宣夫社長(当時)は「赤字を垂れ流すわけにはいかない」と不採算店を閉鎖しました。その痛みを経て、清水智社長の下で再び欧州戦略を再構築。店舗面積約2,000平方メートルの大型フォーマットを導入し、日本の成功モデルを現地化します。

 

金井さんがかつて語った言葉があります。「無印良品は、日本のブランドではない。世界の人が“感じ良い”と思える共通語になる」。

 

そのビジョンが、今ようやく形になろうとしています。パリの旗艦店は、単なる出店ではなく、“理念の再起動”というべきでしょう。理念は場所を超え、時を超えて、再び力を発揮しているのです。

 

「理念は利益を生む」──数字が証明した哲学

 

 

「理念は美しい。しかし、それが利益に結びつくとは限らない」──そう思われがちであり、経営者の多くはそう言うでしょう。けれども、良品計画の現在の数字は明快に示しています。営業利益率9.4%、販管費率41.9%への改善。これは、理念が徹底された組織がどれほど強いかを示す証拠です。

 

金井さんがよく語る言葉に「商いとは、思想を実装する仕事である」があります何を信じ、どんな社会を目指して商うのか。その思想が曖昧なままでは、どんな戦略も一過性に終わります。理念が明確であれば、現場の意思決定が速く、ぶれない。それが、強いブランドをつくる最も確かな道です。

 

良品計画の物語は、大企業の成功譚ではありません。むしろ、小さな商人が理念を持って商うことの大切さを教えてくれます。「この店があると、なんか気持ちがいい」と、お客様が感じる店には、必ず“理念”があります。それは難しい経営理論ではなく、「どう生きたいか」「どんな世の中をつくりたいか」という想いのことです。

 

その想いがある店は、言葉が強く、売場が語り、商品が物語を持ちます。価格競争ではなく、“信頼”で選ばれるようになるのです。無印良品が「説明書ではなく、感じ良さ」で世界とつながったように、私たちの店も、“理念という言葉”でお客様とつながることができます。

いま、良品計画の舵を取る清水智社長は「理念を新しい時代の言葉で翻訳しながら、世界中の暮らしに届けたい」と語ります。それはまさに、金井さんが残した“感じ良い暮らし”という思想の継承にほかなりません。理念が経営を導き、理念が人を動かす。そして、その理念が利益を生むのです。

 

商いの本質とは、「何を信じるか」にあります。理念とは、商人にとっての羅針盤です。それを持つ者だけが、時代の荒波を越えていけます。金井政明が証明した「理念は利益を生む」という真理は今日も、あなたの店の中で静かに息づいているはずです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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